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閣議決定による集団的自衛権の行使容認に反対する会長声明(H26/05/02)

閣議決定による集団的自衛権の行使容認に反対する会長声明

2014年(平成26年)5月2日
香川県弁護士会
会長 籠 池 信 宏

1 声明の骨子
現在、集団的自衛権の行使について、これまでの政府見解及び憲法解釈を変更することにより、これを容認しようという動きがある。
そして、政府においても、安倍晋三首相は、本年2月20日の衆議院予算委員会において集団的自衛権の行使容認に向けた憲法解釈の変更を閣議決定によって行う方針を明らかにしている。また、菅義偉官房長官も、本年4月10日午後の記者会見で、集団的自衛権の行使を容認する閣議決定を行う方針を改めて示している。
しかし、以下に示すとおり、集団的自衛権の行使を容認することは、現行憲法の解釈としては限界を超えるものである。
集団的自衛権の行使の是非は、現行憲法の根幹に関わる事項であり、行政機関に過ぎない内閣の閣議決定によってその是非を決することのできる事柄ではない。もしその是非を問うのであれば、全国民的な議論に基づき、現行憲法に定められた憲法改正の手続を通じて行われるべきである。
2 集団的自衛権の行使が現行憲法の解釈としては限界を超えていること
憲法9条は、「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使」を国際紛争を解決する手段としては永久にこれを放棄するとともに、その目的を達するため、「陸海空軍その他の戦力」の保持を否定している。
これらの文言からすれば、何らの実力を保持することすらも禁止しているとの解釈すら考えうるところである。
もっとも、何らの実力を保持することなくして、国民の生命・財産の保持という国家の任務が遂行できるかといえば、それは現実には困難である。そのような国民の生命・財産が危険に晒される事態を、国民の生命・財産を守るために存在するはずの憲法が強制しているとは解釈しがたいところである。
したがって、憲法9条の文言との整合性も踏まえ、自国の安全を保障するための必要最小限の実力は保持できるし行使も可能であるが、それ以上のことはできない、というのが憲法9条の文言の解釈として導き出されうる限界であり、この解釈は、これまで内閣自身が踏襲し、積み重ねてきた解釈でもある。
一方、集団的自衛権は、「自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力を持って阻止する権利」と定義されるところ、このような集団的自衛権の行使は、未だ自国民の生命・財産が直接危険に晒されていない状態での実力の行使であるから、自国の安全を保障するための必要最小限度という憲法が認める範囲を超えることが明らかである。
このように、憲法9条の解釈として、集団的自衛権の行使が認められないのは、当然の論理的帰結である。
集団的自衛権の行使は、憲法9条に反するものと解するほかないのであるから、行政機関に過ぎない内閣が閣議決定で容認することを打ち出したとしても、それが違憲であることに変わりはなく、閣議決定及びそれに基づいた具体的措置は憲法98条により法的に無効となる。

3 立憲主義に基づく憲法は中長期的な国家ビジョンを示したものであること
そもそも立憲主義に基づく憲法は、中長期的な視野に立って、国全体の基本原則を定めたものである。立憲主義とは、このような中長期的な視野に立った憲法を制定し、それを政府に遵守させることにより、その時々の短期的な政治的多数派の意向をもっては覆すことのできない中長期的な国家理念を定め、それを実現していくことにその意義がある。
憲法9条が定める平和主義は、現行憲法の根幹をなす理念であり、中長期的な視野に立って日本の国益に資するものとして定められた、国全体が守るべきとされる基本原則である。集団的自衛権の是非が、この基本原則に関わる以上、時々の政治的多数派である内閣による閣議決定で覆すことは立憲主義の理念に反するものと言わざるを得ない。

4 憲法は国民が政府に対して制約を課したものであること
憲法は、主権者である国民が、政府を含めた国全体の行動に対し、中長期的に制約を課し、いわば政府を縛っているものである。憲法の存在により、時々の政府が主権者たる国民の権利を侵害することを予防しているのである。
その憲法の解釈を、他ならぬ縛られている立場である政府自身が変更することにより、国民に是非を問うこともなく、これまで行使できないとしてきた集団的自衛権を行使できるようにすることが許されるはずもない。
このようなことが強行されれば、もはや憲法はその担うべき役割である「政府への制約としての役割」を果たせているとはいえず、憲法によって守られるべき国民主権が危機に瀕すると言わざるを得ない。

5 集団的自衛権の行使の是非は憲法改正の手続に委ねられるべきであること
なお、本声明は、集団的自衛権の行使自体の政治的・政策的是非について意見を述べたものではない(集団的自衛権の行使自体の是非については、全国民的な議論に基づき、現行憲法に定められた憲法改正の手続を通じて、改めて全国民に問われるべきである。)。
しかし、その実現しようとしている政策自体(集団的自衛権の行使)の政治的・政策的是非にかかわらず、この問題について閣議決定による憲法解釈の変更で対応しようとすることは、手続面において、憲法及び立憲主義に対する理解が不足していると言わざるを得ない。

6 結語
本声明は、司法の一翼を担う者として、現行憲法の解釈及び立憲主義に基づき、集団的自衛権の行使が現行憲法の解釈としては認められず、集団的自衛権の行使の是非は憲法改正手続に委ねられるべきで、閣議決定による集団的自衛権の行使の容認は違憲であり、閣議決定それに基づいた具体的措置が法的に無効となることを明らかにしたものである。
政府関係各位には、憲法99条に定める憲法尊重擁護義務に従い、現行憲法の定める手続の遵守を強く求める。
それとともに、国民全体として、憲法の果たしている役割について、今一度充分な関心を持っていただき、各種議論を深めていただきたく、憲法記念日にあたり、本声明を発表する次第である。

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