死刑執行に強く抗議し,改めて死刑執行を停止し死刑廃止について全社会的議論を開始することを求める会長声明
2014年(平成26年)1月8日
香川県弁護士会
会長 小早川 龍司
昨年12月12日,東京,大阪の各拘置所において,それぞれ1名に対して死刑が執行された。谷垣禎一法務大臣による4度目の執行であり,昨年2月21日の3名,4月26日の2名,9月12日の1名に続く死刑の執行であって,現政権下で合計8名に対して死刑が執行されたことになる。2012年時点で,世界で死刑を廃止又は停止している国は140か国,存置している国は58か国であったが,実際に死刑を執行した国は,我が国を含め21か国にすぎなかった。いわゆる先進国グループであるOECD(経済協力開発機構)加盟国(34か国)の中で死刑制度を存置している国は,日本・韓国・アメリカの3か国のみであるが,韓国とアメリカの18州は死刑を廃止又は停止しており,死刑を国家として統一して執行しているのは日本のみである。また,昨年5月31日には,国連拷問禁止委員会の総括所見が発表され,我が国は死刑制度を廃止する可能性についても考慮するよう勧告を受けた。
当会は,昨年9月27日にも,谷垣法務大臣による死刑執行に抗議する声明を発表し,政府に対し,死刑制度に関する抜本的な検討が行われかつそれに基づいた施策が実行されるまでの間,死刑執行を停止することを強く求めていた。また,日本弁護士連合会は,昨年2月12日,谷垣法務大臣に対し,「死刑制度の廃止について全社会的議論を開始し,死刑の執行を停止するとともに,死刑えん罪事件を未然に防ぐ措置を緊急に講じることを求める要請書」を提出し,死刑制度について国民的議論を行うための有識者会議の設置や,死刑制度とその運用に関する情報を広く公開すること,また,死刑制度に関する世界の情勢について調査することを求め,その上で,調査結果と議論に基づき,今後の死刑制度の在り方について結論を出すこと,そのような議論が尽くされるまでの間,すべての死刑の執行を停止すること等を要請していた。そうであるにもかかわらず,国内で全く議論が尽くされないままに今回の執行が行われたことについて,当会は強い遺憾の意を表するものである。
裁判員裁判制度において,市民は死刑判決に否応なく関わらざるを得なくなっており,もはや死刑制度の是非について,国民的議論を回避し続けることは許されない。死刑制度に関する情報の公開と議論の開始は,喫緊の課題である。
また,政府は,政府の世論調査(死刑制度に対する意識調査を含む「基本的法制度に関する世論調査」)の結果を根拠に,国民の8割以上が死刑制度を支持していると評価している。これに対して,日本弁護士連合会は,「死刑制度に関する政府の世論調査に対する意見書」(2013年11月22日)において,この調査の死刑制度に関する主質問では,死刑存置側に回答を誘導するような選択肢が用いられていること,死刑制度を支持する回答者には,「状況が変われば,将来的には,死刑を廃止してもよい」と考えている者も含まれており,将来的にも死刑制度を支持する回答者の割合は,約56%と評価すべきであることを指摘し,同意見書を総理大臣及び法務大臣に提出して,再度全社会的議論を呼びかけたばかりである。その直後に,谷垣法務大臣は,日本弁護士連合会や当会等の要請を無視して死刑を執行したのであり,到底容認できるものではない。
当会は,今回の死刑執行に対し強く抗議するとともに,改めて死刑執行を停止し,死刑に関する情報を広く国民に公開し,法務省に有識者会議を設置する等の方策をとることによって,死刑制度の廃止について全社会的議論を直ちに開始することを求めるものである。