商品先物取引における不招請勧誘禁止規制の緩和に反対する会長声明
2014年(平成26年)5月8日
香川県弁護士会
会長 籠 池 信 宏
経済産業省及び農林水産省は、平成26年4月5日に商品先物取引法施行規則の改正案(以下「本件改正案」という。)を公表して意見募集を開始した。
本件改正案は、商品先物取引法施行規則第102条の2を改正することによって、熟慮期間等を設定した契約の勧誘(顧客が70歳未満である場合で、基本契約から7日間を経過し、かつ、取引金額が証拠金の額を上回るおそれのあること等についての顧客の理解度を確認した場合に限る。)を不招請勧誘(顧客の要請によらない訪問・電話勧誘)禁止の適用除外として、不招請勧誘禁止規制を緩和しようとするものである。
そもそも、商品先物取引における不招請勧誘の禁止規定(商品先物取引法第214条第9号)は、長年にわたり解消しなかった商品先物取引による深刻な被害に対応するため、国会における慎重な審議を経て平成21年7月の法改正で導入されたものであり、平成23年1月の施行後、商品先物取引を巡る消費者の苦情相談が激減した経緯があるのであって、不招請勧誘禁止が商品先物取引被害の抑止に極めて有効であることは明白である。
また、同条号は、不招請勧誘禁止規制の適用対象を政令で指定することとしているところ、上記法改正の審議において、①当面、一般個人(一般委託者)を相手方とするすべての店頭取引と、初期の投資以上の損失が発生する可能性のある取引所取引を政令指定の対象とすること、②施行後1年以内を目処に、政令指定の対象を見直し、必要に応じて一般個人(一般委託者)を相手方とする取引全てに対象範囲を拡大すること、との付帯決議がなされている(平成21年6月17日衆議院経済産業委員会附帯決議第1項、同年7月2日参議院経済産業委員会附帯決議第1項)。
経済産業省産業構造審議会商品先物分科会は、平成24年8月21日に「将来において、不招請勧誘の禁止対象の見直しを検討する前提として、実態として消費者・委託者保護の徹底が定着したと見られ、不招請勧誘の禁止以外の規制措置により再び被害が拡大する可能性が少ないと考えられるなどの状況を見極めることが適当である」との報告書を取り纏め、当面不招請勧誘禁止規制を維持する方向性を確認した。
かかる不招請勧誘禁止規定の導入経緯やその後の状況、上記附帯決議や上記産業構造審議会商品先物分科会の取り纏め内容からすれば、不招請勧誘禁止規制をこの時期に安易に緩和を試みることは厳に慎むべきである。
さらに、本件改正案は、平成21年7月に改正された不招請勧誘禁止規定を骨抜きにするものであり、到底容認することはできない。70歳未満の個人顧客に対する無差別的な訪問勧誘を許容するような立法事実は存在せず、むしろ、不招請勧誘禁止が緩和されれば、いったん減少していた商品先物取引を巡る消費者の苦情相談が激増することは火を見るよりも明らかである。本件改正案は、つまるところ、商品先物取引業界の規制緩和の要請を安易に受け入れようとするものであって、透明かつ公正な市場を育成し、委託者保護を図るべき監督官庁の立場とは相容れない。
当会は、個人顧客保護の観点から、商品先物取引における不招請勧誘禁止規制の緩和に強く反対するものである。