犯行時少年の被告人に対する実名報道についての会長声明
平成23年12月27日
香川県弁護士会
会長 関谷 利裕
平成23年12月某日,県内の裁判所において,犯行時少年であった被告人の公判が開かれたことを受けて,ある報道機関は被告人の実名および住所の一部を報道した。また,その記事には,被告人が「事件時に未成年であった」ことも明記されていた。
さらに,当該報道機関は紙面に掲載するのみならず,インターネット上のホームページにも掲載し,その記事は検索・閲覧が可能な状況であった。これは,犯行時に少年であった者について,氏名,年齢,職業,住居,容ぼう等,本人と推知することができるような記事又は写真の報道を禁止した少年法第61条に反する事態であり,極めて遺憾である。
少年事件の背景には家庭事情や学校・地域をめぐる複雑な要因が存在し,少年個人のみに責任を帰する厳罰主義は妥当ではなく,少年の可塑性に期待した成長支援が保障されるべきであることから,少年法はその第1条において「健全育成」の理念を掲げている。
その理念を受けて,同第61条は,少年の更生・社会復帰を阻害する実名報道を,事件の重大性等に関わりなく,一律に厳格に禁止しているものである。
国際的に見ても、子どもの権利条約40条2項は、刑法を犯したとされる子どもに対する手続の全ての段階における子どものプライバシーの尊重を保障しており、少年司法運営に関する国連最低基準規則(いわゆる北京ルールズ)8条も、少年のプライバシーの権利は、あらゆる段階で尊重されなければならず、原則として少年の特定に結びつきうるいかなる情報も公表してはならないとしている。
上記理念は,少年が成年に達しても決して変わるものではない。少年法は,少年が社会に復帰すること,社会復帰後の成長発達を期待して規定されたものである。この理念のもと,少年法第61条は,少年及び犯行時少年であった者の成長発達の妨げとなる推知報道を禁止している。この理は憲法第13条からも導かれるものであり,報道により少年の今後の更生の機会と社会復帰後の生活を奪ってしまうことは,厳に慎まなければならない。
もとより,憲法第21条が保障する表現の自由の重要性は改めて言うまでもないが,私人である犯行時少年であった者の実名が,報道に不可欠な要素とはいえない。事件の背景・要因を,その原因に遡り,犯行時少年の将来の社会内での生活を見越した報道を行うこと,もしくは,「報道しないという決断」をすることこそ,重要であると考える。
当会は,被告人の実名を公表した報道機関に対し、厳重に抗議するとともに、今後、本件及び同様の事件について、実名報道や少年が推知される報道がなされることがないよう、強く要望する。
以上