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「共謀罪」の新設に反対する会長声明(H18/02/15)

「共謀罪」の新設に反対する会長声明

平成18年2月15日

香川県弁護士会
会長 宮 崎 浩 二

1.はじめに
第163回特別国会においては「犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案(  以下「本法案」という)」が審議されていたが、本法案は衆議院解散により廃案となった。本法案については、審議経過で本法案に含まれる「共  謀罪(改正刑法第6条の2)」について、与党議員を含む多くの衆議院法務委員会委員から、処罰範囲を無限定に拡大させる、或いは表現の自 由・通信の秘密をはじめとする基本的人権が侵害される危険性をはらんでいる、さらには捜査における自白偏重傾向を助長し違法捜査による  人権侵害行為を招来する、といった問題点が指摘されていた。しかし、こうした指摘にもかかわらず本法案は、内容に何らの修正も加えられない まま今国会に再上程されることが決定した。

2.「共謀罪」の新設による処罰範囲拡大の危険性
(1) 「共謀罪」の内容は、「長期4年以上の懲役又は禁錮の刑が定められている罪に当たる行為について、団体の活動として、当該行為を実   行するための組織により行われるものの遂行を共謀した者」に対し、懲役又は禁錮刑を科すというものである。
(2) ここで共謀罪の「共謀」とは、「犯罪を遂行しようという意思を合致させる謀議」あるいは「謀議の結果として成立した合意」をいうとされてい   る。つまり、共謀罪は「共謀」という主観的要件のみで成立し、「実行行為の着手」や「犯罪の準備行為」といった客観的要件が存在しなくとも、  当該謀議への参加者の処罰を可能ならしめる犯罪類型である。
これは、行為ではなく意思を処罰するものに他ならず、以下述べるようにその処罰範囲は無限定に拡大し得ることになる。
まず、「長期4年以上の懲役又は禁錮の刑」が定められている罪は、600種類以上にのぼり、その中には窃盗、詐欺、横領、傷害など、その謀 議そのものを処罰する必要性がない犯罪も含まれることになる。これは、殺人・強盗・放火などの重大犯罪に限って例外的に予備行為を処罰  するものとし、内乱・外患誘致・破壊活動防止法違反など極めて特殊な犯罪についてのみ「陰謀罪」を設けて処罰を限定している現行法の規定 を、処罰範囲を無限定に拡大する方向で改悪するものに他ならない。
また本法案は、「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約」を日本が批准するための国内法整備として提案されたものと説明されてい る。しかし、同条約では「性質上越境的なもの」且つ「組織的な犯罪集団が関与するもの」という適用範囲についての限定が付されていたにもか かわらず、本法案では、団体や対象犯罪については全く限定が取り払われている。このため、この点においても「共謀罪」の適用範囲が不明確 となっている。
そもそも「共謀」という構成要件が主観的・抽象的なものであることから、共謀罪の処罰範囲の明確性を確保することは、事実上不可能である。
以上のような処罰範囲の不明確さは、共謀罪が、客観的要件を要求しないことの論理的帰結であり、共謀罪が本質的・生来的に、処罰範囲の  明確化によって国民の予測可能性を担保することを要求する「罪刑法定主義」の要求を充たし得ない犯罪類型であることを自ら物語っている。

3.「共謀罪」の新設による基本的人権侵害の危険性
既に指摘した通り、共謀罪は、客観的行為を構成要件化しておらず且つ「共謀」という主観的要件は、不明確な概念である。
このことは取りも直さず、共謀罪が新設されれば、客観的な法益侵害や社会秩序の混乱がなくとも処罰が可能となることを意味している。他方  で、捜査の現場では、「共謀」という主観的要件の立証のため自白偏重主義捜査が行われることにより被疑者の身体・自由等に対する重大な  人権侵害が行われることが憂慮される。取り調べの可視化が実現していない現状においては、そのおそれはさらに増大する。
また「共謀」の手段についても何らの限定がないため、会話・電話・メール・チャットなどあらゆるコミュニケーション手段を用いての謀議が全て  処罰の対象となる。その結果、共謀罪の立件のために盗聴・おとり捜査等が行われ、表現の自由、通信の秘密といった憲法上最も強く保護され るべき基本的人権をも侵害する危険性を多分にはらんでいる。さらには、表現の自由を中心とする活動に対して大きな萎縮効果を生じかねない

4.まとめ
以上のように、共謀罪は、その処罰範囲が無限定に拡大される危険性と国家権力による基本的人権を侵害する危険性を多分にはらんでいる と言わざるを得ず、当会は、その新設に強く反対する。

以上

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