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出資法の上限金利引き下げを求める会長声明(H18/06/13)

出資法の上限金利引き下げを求める会長声明

平成18年6月13日

香川県弁護士会
会長 木 田 一 彦

声明の趣旨
当会は、2007年(平成19年)1月までに見直しが予定されている貸金業規制法及び出資法の上限金利のあり方について、以下の点を強く求めるとともに、当会として、今後とも多重債務者問題の解決のために全力を傾けることを宣言する。
1.出資法の上限金利年29.2%を、少なくとも利息制限法第1条1項に定められた制限利率まで引き下げること
2.出資法の日賦貸金業、電話担保に認められている年54.75%の特例金利を廃止すること
3.貸金業規制法第43条の「みなし弁済」規定を廃止すること
声明の理由
1.はじめに
出資法は、業として貸付を行う場合の上限金利を定め、上限金利を超過する利率で利息を受領した場合には刑事処罰の対象とすることを定 めている。
この出資法の上限金利規定については、以前よりその高利率が問題とされており、1999年(平成11年)12月の臨時国会において年40.004%から年29.2%に利率の引き下げがなされるとともに、施行後3年を経過した時点で上限金利について必要な見直しを加えるとの附帯決議がなされた。
その後2003年(平成15年)7月に「貸金業規制法及び出資法の一部改正法(いわゆるヤミ金対策法)」が成立するとともに、同法の附則で施行後3年を目途として新貸金業規制法の施行状況、貸金業の実態等を勘案して検討を加え、必要な見直しを行うことが規定された。
この附則に基づき、金融庁では2005年(平成17年)3月に「貸金業制度等に関する懇談会」を発足させ、上限金利の見直し等のための検討作業を行ってきた。
こうした議論の中で、消費者金融業界は、出資法上限金利の引き上げと「みなし弁済」規定について貸金業規制法第17条書面及び18条書面をIT化し、電子メール等の電子的手段によってその交付を認めるようにするなど「みなし弁済」の適用要件の緩和を実現するため、国会への要請を始め諸方に向けた活動を行っている。消費者金融業界のこうした活動の最終目的は、金利引き上げ、「みなし弁済」規定の適用要件緩和といった成果を段階的に獲得することを通じ、いずれ金利自由化を実現させることにある。
しかし、以下に述べる通り、出資法上限金利の引き上げや金利自由化、「みなし弁済」の適用要件の緩和を認めることは、借主の返済すべき元利金の絶対額を増大させる結果となり、これまで以上に多重債務者を増加させる原因となることが明らかである。このため、当会は、出資法の上限金利を引き下げ、現行の利息制限法の制限利率に一致させるための立法措置が必要であるとの考えに基づき、この声明を発する。
2.多重債務問題の本質
現在のわが国の自己破産件数は、2002年(平成14年)が21万4683件、2003年(平成15年)が24万2457件、2004年(平成16年)以降は若干減少しているものの、依然として高水準で推移している。さらに、破産予備軍も200万人にのぼると言われており、いわゆる多重債務問題に苦しむ人の数は極めて深刻なレベルにある。
こうした多重債務問題の本質は、負債という単なる経済的側面にとどまらず、経済的破綻を原因とする失踪、自殺、家庭崩壊等の社会的病理現象の根本原因をも形成しているところにある。
したがって、出資法の上限金利問題について議論する際には、こうした社会的病理現象の根本原因となっている多重債務問題の解消に向けてどのような施策を講じるべきか、という観点からの検討がなされなければならない。
そのためには「なぜ多重債務が生じるのか」という基本的な問題意識に基づき、多重債務が発生する原因を分析する必要がある。
3.多重債務の原因
一般消費者は、失業・賃金引き下げ・ボーナスカットなどによる収入の減少、住宅ローン等の長期固定負担、本人や家族の疾病に伴う負担の増加、親族や知人の連帯保証など、多種多様な理由により消費者金融会社に初めて借入を申し込むことになる。
こうした一般消費者は、担保不足等の理由によって銀行等の金融機関での借入を受けられなかった又は受けられないため、やむにやまれず消費者金融会社に借入を申し込むというのが社会実態であって、そもそも経済的余裕がないのが常態である。経済的余裕がない一般消費者に高利で貸付を行えば、いずれその借主が経済的に破綻することは必然である。この問題構造は、利息制限法の制限利率内での貸付においても同様に妥当する。
したがって、多重債務は、そもそも貸付金利が高利であることを根本原因として生じているものである。
4.消費者金融会社によるグレーゾーン金利での貸付
消費者金融会社は、テレビCMでのイメージアップ戦略や無人契約機の設置に象徴されるように、「借りやすさ」を演出し、経済的余裕に乏しい一般消費者に対する貸付を増やし、多大な利益を上げてきた。その貸付金利は、大手消費者金融会社を中心に年25~29.2%(不動産担保ローンを除く)の契約が大部分を占めており、利息制限法の制限利率を大幅に上回っている。このような利息制限法違反の高利での貸付は、経済的余裕のない借主の負担の絶対額を増加させることになるため、借主に返済のために他の消費者金融会社からの借入を強いる結果を招き、多重債務を発生・助長させる原因となっている。こうした負の連鎖は、恫喝的で執拗な取り立てがなされるようになるとさらに加速する。
こうした大手消費者金融会社によってこのような利息制限法違反の貸付が堂々とまかり通っている原因は、(1) 出資法上限金利と、利息制限法の制限利率が乖離しているために生じるグレーゾーン金利(民事上違法であるが刑事上は処罰されないゾーン)の存在と(2) 一定の要件の下でグレーゾーン金利を民事上も正当化するかのような「みなし弁済」規定の存在の2点に求められる。
したがって、多重債務の根本原因をなす利息制限法違反の貸付をなくすためには、少なくとも「グレーゾーン金利の解消」と「みなし弁済規定の廃止」を立法政策として実現する必要がある。
5.出資法の上限金利引き下げの必要性
出資法の上限金利問題については、多重債務の原因が高利での貸付にある以上、金利を引き下げる方向で決着がなされなければならない。より本質的には利息制限法の制限利率ですら高利であるという問題意識に基づき、少なくとも現在の議論の中では、出資法の上限金利を引き下げて現行利息制限法の制限利率に一致させることにより「グレーゾーン金利の解消」を実現する必要がある。この金利引き下げの実現によって「みなし弁済」規定はその存在意義を失うことになるため、同規定の廃止も実現されることになる。
こうした金利引き下げの必要性に対し、消費者金融業界を中心に、金利を引き下げると資金需要者のニーズに応えられなくなるといった理由や、ヤミ金融の跋扈を招くなどの弊害が生じるなどとして、金利引き下げに反対する主張もなされている。
しかし、消費者金融業界側のこうした主張は、大手消費者金融会社による高利での貸付に端を発して多重債務が発生しているという社会実態から目をそむけ、自らの利益を守るためのものに他ならない。
資金需要者のニーズに応えられなくなるとの主張については、そもそも返済能力のある資金需要者による健全なニーズと返済能力のない資金需要者の不健全なニーズを峻別せず、自らの利潤追求のために貸付を行ってきたことを自白しているようなものである。むしろ金利引き下げが実現すれば、健全なニーズと不健全なニーズの峻別が進み、貸し倒れリスクが低減されることが期待されるのであって、金利引き下げの必要性を否定する論拠とはなり得ない。不健全なニーズについては、破産法をはじめとする倒産法制の整備や社会福祉政策によって対応すべき問題であり、消費者金融業界が対応すべき問題ではない。
ヤミ金融の跋扈問題についても、2000年(平成12年)の金利引き下げ時においてもそのような社会的事実は認められておらず、事実上の因果関係すら確認されていない。ヤミ金融問題は、出資法の上限金利問題とは別個の問題としてヤミ金融対策立法や警察対応によって根絶すべきものである。
6.日賦貸金業者及び電話担保金融に関する例外措置の撤廃
現行出資法は、日賦貸金業者及び電話担保金融業者について、刑事処罰の対象となる利率を「年54.75%」の特例を設けている。
この特例が設けられた趣旨は、日賦貸金業者の場合には日々の集金という回収方法にコストが掛かるためという説明がなされていた。しかし、金融機関のATMネットワークの整備に伴い回収にかかるコストにおいて、一般の貸金業者よりも日賦貸金業者を優遇すべき合理性は消滅している。さらにこの特例を利用した脱法的な高利貸付の横行という弊害が生じていること、最高裁判所が2006年(平成18年)1月24日判決で日賦貸金業者についてもみなし弁済の適用を否定したことに鑑みれば、日賦貸金業者に対する特例を存続させる必要性はない。
また電話担保金融業者については、そもそも電話加入権の財産的価値が消滅しており、その業態での貸付を特別に優遇すべき合理性は存在しない。
よって、日賦貸金業者及び電話担保金融業者に関する特例は、直ちに廃止されるべきである。
7.まとめ
以上のように、出資法の定める上限金利問題については「利率引き下げによるグレーゾーン金利の解消」と「みなし弁済規定の廃止」を多重債務問題の解消への第一歩と位置づけて、早期の立法対応がなされるべきである。
同時に、日賦貸金業者及び電話担保金融業者の特例については、社会情勢の変化によって優遇措置を講じる合理性が消滅していることに基づき、直ちに廃止されるべきである。

以上

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