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少年法等の「一部改正」法案に反対する会長声明(H17/07/25)

少年法等の「一部改正」法案に反対する会長声明

平成17年7月25日

香川県弁護士会
会長 宮 崎 浩 二

 政府は、本年3月1日、「少年法等の一部を改正する法律案」を国会に提出し、同法案は今国会において審議中である。
この「改正」法案中には次のとおり、①警察の調査権限の付与、②少年院送致年齢の下限撤廃、③保護観察中の遵守事項を守らない少年に対する施設収容処分などを内容とするものがあり、これらは児童相談所や児童自立支援施設の保護的、福祉的機能を大きく後退させ、保護観察制度の根底を揺るがすものであることから、反対の意思を表明する。
1、触法少年・ぐ犯少年に対する警察の調査権限の付与
触法少年等に対しては、福祉的・教育的な観点から、少年が非行に至る背景を探り、ケアをすることが必要である。そこで、従来、触法少年等に対しては、警察の捜査ないし調査権限を認めず、児童相談所の調査に委ねてきた。
ところが、この「改正」法案は、少年心理についての専門性を有しない警察官に、触法少年等の調査を委ねることを認めるものであり、教育的・福祉的対応を後退させるものであるのみならず、かえって、未発達で被暗示性を有する少年については、自白強要等不適切な取調べ等によって、真相解明が阻害される危険性が高いというべきである。
よって、触法少年等に対する警察の調査権限の付与については反対である。
2、少年院送致年齢の下限撤廃
「改正」法案は、少年院送致年齢の下限を撤廃し、法的には、小学生はおろか幼稚園児でも少年院に送致できるとの内容となっており、「厳罰化」を進めるものである。
少年院における矯正教育は、集団的処遇を前提とし、少年に規範を遵守する精神を育成することを主たる目的としていると言われており、14歳未満の少年にふさわしい処遇とはいえない。
低年齢で犯罪を犯す少年の場合には、被虐待体験を含む複雑な生育歴を持っている少年が多く、家庭環境に深刻な問題を抱えている場合が多い。これらの少年については、まず、温かい疑似家庭の中で大切にされる経験を積まなければならないのであり、家庭的環境の中で「育て直し」を行う必要性が高い。従って、これら低年齢の少年に対しては、現行の児童自立支援施設の処遇こそがふさわしいのである。現在の少年院の教育内容を改革することなく、低年齢の少年を安易に少年院に送致するだけでは、何ら再非行の防止にはつながらない。
よって、少年院送致年齢の下限撤廃には反対である。
3、遵守事項違反を理由とする少年院送致
「改正」法案では、保護観察中に遵守事項に違反した場合にも少年院送致などの措置がとれる制度を設けている。
しかし、新たな非行事実がないのに、単に遵守事項違反を理由として、一旦なされた保護処分を取り消して少年院送致処分を言い渡すことは、実質的に当初の保護処分の基礎となった非行事実を再び考慮したことになり、憲法が禁止する「二重処罰」にあたるおそれがある。
現行制度においても、保護観察中に遵守事項違反があり、それが再非行に結びつく場合には、ぐ犯少年として保護処分をすることができるのであり、新たに制度を設ける必要はない。
保護観察は、長期的な視点で少年の試行錯誤を見守り、信頼関係を築きながら、少年の自立的立ち直りを援助し、少年を更生に導びく制度である。しかるに、遵守事項を守らない場合には少年院に収容されるという威嚇をもって遵守事項を守らせる制度は、保護司と少年の信頼関係を基本とする保護観察制度自体を変容させることになり、少年の自主的な努力による立ち直りを阻害するものといわざるを得ない。
よって、遵守事項違反を理由とする少年院送致には、反対である。

以上

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