各種声明

同性婚訴訟における地裁5判決を受け、改めて速やかな同性婚の法制化を求める会長声明(R5.9.25)

同性婚訴訟における地裁5判決を受け、改めて速やかな同性婚の法制化を求める会長声明

                                  

2023年(令和5年)9月25日
                                  香川県弁護士会
                                  会長 松井 創

1 同性カップルらを原告とする、法律上の婚姻を異性間に限る現行の民法及び戸籍法の諸規定の違憲性を争う訴訟(「結婚の自由をすべての人に」訴訟)において、2023年(令和5年)5月30日に名古屋地方裁判所で、同規定が憲法14条1項及び24条2項に違反する旨の判決が、同年6月8日に福岡地方裁判所で、同規定が憲法24条2項に違反する状態にある旨の判決が、各々言い渡された。

2 名古屋地裁判決は、現行の法律婚制度は、両当事者及びその親族の身分関係を形成するとともに、法律上、当事者間及びその他の第三者との間に様々な権利義務関係を生じさせる法律上の効果のみならず、事実上の効果として、婚姻制度の利用による社会的な信用の形成、信任が得られるなどの社会的効果、精神的心理的効果をも生じさせるものであるとし、同性カップルにおいても、親密な関係に基づき永続性をもった生活共同体を構成しうることは、異性カップルと何ら異ならないとした。
 そして、両当事者の関係が国の制度により公証され、その関係を保護するのにふさわしい効果の付与を受けるための枠組みが与えられるという利益は、憲法24条2項により尊重されるべき重要な人格的利益であるにもかかわらず、同性カップルは、制度上このような重要な人格的利益を享受できず、その不利益は甚大なものであると論じ、現行法の諸規定は、同性カップルに対して、その関係を国の制度によって公証し、その関係を保護するのにふさわしい効果を付与するための枠組みすら与えていないという限度で、憲法24条2項に違反するものであると判示したものである。
 加えて、同性との婚姻が認められないことは、性的指向により別異取扱いがなされていることに他ならないとし、憲法24条2項と同様に、憲法14条1項にも違反するものとした。

3 福岡地裁判決は、永続的な精神的及び肉体的結合の相手を選び、公証する制度は、基本的には現行法上婚姻制度のみであるところ、同性カップルが婚姻制度を利用できず、公証の利益も得られないことは、同性カップルを法的に家族として承認しないことを意味するものであるとし、婚姻をするかしないか及び誰と婚姻して家族を形成するかを自己の意思で決定することは、同性愛者にとっても尊重されるべき人格的利益であって、原告らが婚姻制度を利用できない不利益は、上記人格的利益を害するものであるとした。
 さらに、我が国においても婚姻は異性のものという社会通念に疑義が示され、同性婚に対する国民の理解も相当程度浸透されているものと認められると評価したうえ、現行法の規定の下で原告ら同性カップルは、婚姻制度を利用することによって得られる利益を一切享受できず、法的に家族と承認されないという重大な不利益を被っていること、婚姻に対する社会通念もまた変遷し、国民の理解が相当程度浸透されていることに照らし、同性カップルに婚姻制度の利用によって得られる利益を一切認めず、自らの選んだ相手と法的に家族になる手段を与えていない現行法の規定は、憲法24条2項に違反する状態にあると言わざるを得ないと結論付けたものである。

4 同種訴訟は名古屋・福岡の他、札幌・東京・大阪の合計5地域で提訴されていたところ、大阪地方裁判所判決(大阪地裁令和4年6月20日判決・判例時報2537号40頁)は、現行法の規定について合憲である旨の判断をしているものの、札幌地方裁判所判決(札幌地裁令和3年3月17日判決・判例時報2508号152頁)は、「本件規定が、異性愛者に対しては婚姻という制度を利用する機会を提供しているにもかかわらず、同性愛者に対しては、婚姻によって生じる法的効果の一部ですらもこれを享受する法的手段を提供しないとしていることは、立法府が広範な立法裁量を有することを前提としても、その裁量権の範囲を超えたものであるといわざるを得ず、(中略)憲法14条1項に違反すると認めるのが相当である」旨の判断を示した。
 また、東京地方裁判所判決(東京地裁令和4年11月30日判決・判例時報2547号45頁)は、「現行法上、同性愛者についてパートナーと家族になるための法制度が存在しないことは、同性愛者の人格的生存に対する重大な脅威、障害であり、個人の尊厳に照らして合理的な理由があるとはいえず、憲法24条2項に違反する状態にある」と判断しており、今回の名古屋地裁判決、福岡地裁判決と合わせて全国5地裁のうち2地裁が違憲、2地裁が違憲状態にある旨の判断を示したこととなる。
 唯一合憲の判断を下した大阪地方裁判所判決においても、将来的に立法不作為が憲法24条2項違反となる可能性について言及されており、一連の判決は、現行法上、同性パートナーと家族になるための法制度が何ら存在しないことについて、当事者の重要な人格的利益を害するものとして、速やかな立法措置による解決を求める重要なメッセージを発しているものである。

5 他方、政府及び国会は、2023年(令和5年)2月1日に岸田文雄内閣総理大臣が同性婚の法制化に関する質問に対して「家族観や価値観、社会が変わってしまう課題だ」と答弁するなど、同性婚の実現に向けた法整備について、一貫して消極的姿勢を示してきた。
 これに対し、当会は同年3月8日付で「性的マイノリティに対する差別発言に抗議し、速やかな同性婚の法制化を求める会長声明」を発出し、速やかな同性婚の実現に向けた法整備を求めてきたところであるが、このたびの全国5地裁における判決内容をふまえ、改めて、国に対し、一連の判決における司法判断を尊重し、速やかに法律上の婚姻を異性間に限る現行の民法及び戸籍法の諸規定を改正して、同性婚を法制化することを求める。

© 2024 香川県弁護士会