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「オンライン接見」の実現を求める会長声明(R5.6.1)

「オンライン接見」の実現を求める会長声明

2023年(令和5年)6月1日
香川県弁護士会
会長 松 井  創

第1 声明の趣旨
 被疑者・被告人の人権保障を拡充するための「オンライン接見」の実現を強く求める。

第2 声明の理由
1 刑事手続のIT化の議論状況
 現在、法務省の法制審議会刑事法(情報通信技術部)部会(以下「部会」という。)では、刑事手続のIT化の議論が進められている。同部会では、刑事手続における情報通信技術の活用に関する検討会の取りまとめ報告書を踏まえて、「検討のためのたたき台」(以下「たたき台」という。)が作成され、その中で、被疑者・被告人(以下、併せて「被疑者等」という。)と弁護人・弁護人となろうとする者(以下、併せて「弁護人等」という。)との接見について、被疑者等と弁護人等との接見を映像・音声の送受信により行うこと(以下「オンライン接見」という。)の法的位置づけ及びその規律の要否が検討されている。

2 オンライン接見を実現する必要性
(1) 身体の拘束を受けている被疑者等にとって、刑事施設・留置施設が弁護人等の法律事務所から遠く離れている場合等を含め、身体拘束の当初から、弁護人等の援助を受けることは重要な権利である。憲法第34条前段は、弁護人の援助を受ける権利を定め、これを受け刑訴法第39条第1項は、弁護人等が被疑者等と立会人なく面会し、書類の授受をすることができるとする接見交通権を定めている。
 現代のITからすれば、遠隔地にいる弁護人等が被疑者等とビデオ会議システムを用いて対面することや、電子データ化された書類の授受を行うことも現実的な手段といえる。
 かかる現代の状況下では、オンライン接見は、刑訴法第39条第1項の接見交通権の行使に含まれるものと解するべきであり、権利性を有する法律上の制度として、国家予算を投じて運営されなければならない。
(2) 特に、逮捕直後の初回の接見は、身体を拘束された被疑者にとって、今後捜査機関の取調べを受けるに当たっての助言を得るための最初の機会であって、憲法上の保障の出発点を成すものであるから、これを速やかに行うことが被疑者等の防御の準備のために特に重要である。
 現在、日本では逮捕段階における公的弁護制度が創設されていないため、被疑者は、身体を拘束された直後の重要な時期に、弁護人等の助言を受けられず、虚偽自白や冤罪の危険に曝されるという、重大な防御上の不利益を被っている。
 したがって、逮捕段階においては、被疑者は、身体拘束された後、速やかに、弁護人等から,黙秘権告知等の助言その他、弁護活動を受ける必要があり、地理的条件を問題としないオンライン接見はこれらを実現する制度として極めて重要な意義を有する。
 また、被告人が起訴後に遠隔地所在の刑事施設に移動することもあり、こうした場合、地理的な要因によって起訴後の接見が困難になることがある。そのため、公判前整理手続や公判手続の遅延を招き、起訴後に十分な接見が受けられないといった事態が生じ得る。裁判員裁判や法定合議事件等の重大事件における起訴後の遠距離移送などが、その例である。こうした場合も、オンライン接見を用いて、被疑者等が継続的に弁護人等の援助を受けられるようにする必要性が高い。
(3) 香川県内においては、小豆警察署での接見の必要が生じた場合には、定期船を利用しなければならないため、数時間の移動時間を要する。また、丸亀・観音寺地域の弁護人等による高松刑務所での接見や、感染症、利益相反、共犯者又は女子集中留置等の都合上、遠方で留置された者の接見についても同様に、数時間の移動時間を要する。
 初回接見の重要性は言うまでもないところであるが、オンライン接見は、逮捕直後における迅速な接見、遠隔地における迅速な接見を行うための有用な手段となり得るものであり、実現の必要性は極めて高い。

3 オンライン接見の検討課題について
 部会において、オンライン接見について、捜査機関側から、実施設備に伴う人的・経済的コストの負担や、なりすましの危険がある等の問題が指摘されている。
 しかし、新たな設備の整備等に伴い人的・経済的コストが増えるのは、令状手続のオンライン化をはじめとする刑事手続のIT化全般に妥当することである。捜査機関側の制度では問題とされず、被疑者等側の防御上の制度については問題とされるのは不合理である。部会では、取調べ、弁解録取、勾留質問等をオンラインで行うことが具体的に検討されているところ、それらが可能なのであれば、オンライン接見も可能なはずである。捜査機関の利便性のためだけではなく、被疑者等の人権保障を最大限に実現する観点からも、人的・物的対応体制、予算措置の拡充等の議論が尽くされなければならない。
 また、アクセスポイント方式(弁護人等が、拘置所等と電話接続された検察庁、法テラス等の施設に出向き、同施設内の電話を利用して、拘置所等にいる被疑者等と音声通話を行うもの)を採用している、現行の電話連絡制度(一部の警察署で実施)や電話による外部交通制度(法務省が実施)において、第三者が弁護人等になりすますなどして、罪証隠滅を図ったという事例は報告されていない。現代のITの進歩は目覚ましく、こうした弊害を除去するための現実的な措置は、アクセスポイント方式を例として、既に存在しているといえる。

4 まとめ
 刑事手続のIT化やオンライン接見の議論は、何よりも被疑者等の人権保障を拡充するという観点で進められるべきである。当会は、オンライン接見が実現されることを強く求める。

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