「谷間世代」の司法修習生に対する不平等な取扱いの是正を求める会長声明
2023年(令和5年)4月25日
香川県弁護士会
会長 松 井 創
1 司法修習制度の意義と歴史
司法は、日本国憲法下における三権の一翼として、法の支配を実現し、国民の権利を守るための重要な社会インフラであり、法曹(裁判官、検察官、弁護士)は、司法の担い手として公共的使命を負っている。
日本国憲法施行後、国は、かかる法曹の養成については、司法修習制度を採用し、司法修習生に対し、修習専念義務(兼職の禁止)や守秘義務を課しつつ、一定の給与を支給してきた(給費制)。
2 「谷間世代」に対する不平等な取扱い
もっとも、2011(平成23)年11月、給費制は廃止され、新第65期司法修習生から、生活費等を必要とする司法修習生に対して金銭を貸与する制度(貸与制)が導入された。
しかしながら、貸与制については多くの批判が集まり、2017(平成29)年4月に、修習給付金制度が採用され、第71期司法修習生以降は、一定の給付金を受けることができるようになった。
しかるに、新第65期司法修習生から第70期司法修習生(いわゆる「谷間世代」)については、現在においても、何らの経済的手当もなされず、無給での司法修習を強いられたという不平等な取扱いが残された状態が続いている。
3 不平等是正の社会的意義
上記のとおり、法曹は、法の支配を実現し国民の権利を守る公共的使命を負っているが、「谷間世代」の法曹(約1万1000人に達し、全法曹の4分の1を占める。)は、貸与制の下で負った借金の返済をしながら、こうした公共的使命を果たすべく献身的な活動を行っている。
今後、「谷間世代」の法曹は司法の中心的な担い手となるが、「谷間世代」に対する不平等な取扱いを残置させて、社会的・経済的弱者を支援するための献身的活動を困難とさせる状態が生じていることは、社会的にも大きな損失である。
4 名古屋高等裁判所判決
この問題は司法の場でも指摘され、名古屋高等裁判所2019(令和元)年5月30日判決では、「従前の司法修習制度の下で給費制が果たした役割の重要性及び司法修習生に対する経済的支援の必要性については、決して軽視されてはならないものであって、控訴人らを含めた新65期司法修習生及び66期から70期までの司法修習生(いわゆる「谷間世代」)の多くが、貸与制の下で経済的に厳しい立場で司法修習を行い、貸与金の返済も余儀なくされている(中略)などの実情にあり、他の世代の司法修習生に比し、不公平感を抱くのは当然のことであると思料する。法解釈としては、給費制及び給費を受ける権利が憲法上保障されているということはできないとしても、例えば谷間世代の者に対しても一律に何らかの給付をするなどの事後的救済措置を行うことは、立法政策として十分考慮に値するのではないかと感じられるが、そのためには、相当の財政的負担が必要となり、これに対する国民的理解も得なければならないところであるから、その判断は立法府に委ねざるを得ない。」と付言された。
5 最後に
よって、当会は、国に対し、可及的速やかに、「谷間世代」に対する不平等な取扱いを是正するよう、強く求めるものである。