少年法「改正」法案の参議院における否決を求める会長声明
平成19年5月23日
香川県弁護士会
会長 柳 瀬 治 夫
平成19年4月19日、衆議院において、与党単独で、少年法「改正」法案(与党修正案)の強行採決がなされた。 法案が14歳未満の触法少年の疑いのある者について警察に調査権限を付与したことはきわめて問題である。近時、大阪地裁所長襲撃事件において、大阪高裁は、事実を認めた少年の自白の信用性に問題を指摘し、非行事実を認めた大阪家裁決定を取り消した。成人の事件においても、鹿児島選挙違反えん罪事件など、警察の違法な取調の実態が相次いで浮き彫りにされてきているところである。成人よりもずっと防御能力の低い14歳未満の少年について、取調に対する弁護人の立会も認めず、取調のビデオ録画もなされないままに、警察に強制調査権限だけを持たせれば、えん罪の危険が飛躍的に高まることは言うまでもない。少年院収容年齢をおおむね12歳以上としたことについても、小学生をも少年院に収容することになるのであり、極めて問題である。「おおむね12歳以上」という文言も、解釈によってそれ以下に下げられる運用がなされるおそれもある。そもそも、本法案の審議過程では、本来議論されるべき、児童自立支援施設の有用性やその充実策について十分に議論されておらず、厳罰化ありきで審議が進められている。このような状況から見ても処罰の代替手段として少年院が利用される危険性は否定できない。
14歳未満の低年齢で非行を犯す少年は、被虐待体験を持つなど、生育歴に重大な問題を抱えていることが多い。それに対応するには、集団で規律を重視した処遇ではなく、その子どもの個別の問題点に切り込んで手厚い処遇を行わなければ再犯防止につながらない。子どもの非行や虐待についての専門的知識を有する児童相談所が事実関係の調査を綿密に行い、児童自立支援施設のような環境で得られなかった家庭での体験を補い、育て直しを行うことこそが必要なのである。
保護観察中の少年の遵守事項違反を理由とする少年院等送致を認めたことについても、極めて問題である。保護観察とは、長期的な視点で少年の試行錯誤を見守り、信頼関係を築きながら少年の自立的立ち直りを援助し、少年を更生に導く制度であるのに、それを管理と威嚇に基づく制度に変容させてしまうものであって不当である。保護観察官の増員や適切な保護司の確保の議論こそ優先させるべきである。
法案が「ぐ犯少年である疑いのある者」に対する警察官の調査権限を認める条項を削除し、また、少年が釈放された場合も国選付添人選任の効力を継続させたことについては一定の評価はできるものの、未だ上記のとおり多くの問題点が残されており、それらは個別の修正で解決できるものではない。
よって、当会は、参議院で本法案を否決し、この問題について根本的な議論を行うことを強く求めるものである。
以上