教育基本法改正に反対し、かつ参議院において慎重審議を求める会長声明
平成18年12月8日
香川県弁護士会
会長 木 田 一 彦
1,本年4月28日,政府は教育基本法改正法案(以下「改正案」という。)を国会に提出したが,そのわずか半年後の本年10月16日,改正案は,衆議院本会議で与党の賛成多数により可決された。改正案について多方面から反対論が高まっている中,この改正法案の成否や内容の当否については,今後,参議院の議論を待つことになっている。
このような状況下において,当会は,以下の理由により,教育基本法(以下「現行法」という)を改正しようとする政府・国会等の動向に対して,強く反対すると共に参議院おける慎重審議を強く要求するものである。
2,そもそも,現行法は,その前文において,「われらは,さきに,日本国憲法を確定し,民主的で文化的な国家を建設して,世界の平和と人類の福祉に貢献しようとする決意を示した。この理想の実現は,根本において教育の力にまつべきものである。」と謳っており,最高法規である日本国憲法と不可分一体をなす,まさに教育の最高法規として,戦後の平和的民主的教育を支えてきた重要な法律である。特に現行法第10条が,国家等による教育に対する不当な支配を禁ずる旨を明示しているのは,その立憲主義的理念を端的に表しているところである。さらに教育は,その性質上,教育を受ける者の内心の自由と強く結びついており,その改正の必要性については国民の多様な意見を踏まえ,それを基礎とした上で,慎重かつ十分な議論を経て判断されるべきものである。
ところで,改正案第2条第5項は,「伝統と文化を尊重し,それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛するとともに他国を尊重し,国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うこと」を,教育において達成すべき目標の一つとして掲げている。しかし「伝統」や「文化」はそれ自体多義的であり,仮に,教育の名の下に,伝統や文化が教育現場で実践され、又、強制されることになれば,結局は,教育を司る国や地方公共団体がその内容を一義的に決定することになり,教育の名のもとに憲法の保障する内心の自由が侵害される危険が大きいと言わざるを得ない。
また,現行法第10条は,「教育は不当な支配に服することなく,国民全体に対して直接責任を持って行われるべきである。」とされ,国家による教育内容への介入を抑制しているが,改正案第16条では,教育は,法律および他の法律に定めるところにより行うとされ,いわゆる「法律の留保」の形式をとっている。さらに,教育振興基本計画(改正案第17条)は,法律の留保を明示した第16条の改正と相まって,計画の達成度評価や予算配分などを通して,教育に対する国家的介入を促進する恐れも大きい。
このように憲法の基本原則に関わる重要な論点を含み,かつ教育現場にも大きな影響と混乱を及ぼす法案であるにもかかわらず,改正理由,改正指針,改正案の個々の文言等について,国民の間で未だ十分な議論が重ねられたとは言い難い。改正案は,衆議院においても,与党などの賛成多数で可決されたが,新内閣の成立直後に国民に必要な情報が開示されないままの可決であったとの誹りは免れず,議論を尽くさないまま改正案を成立させようとする政府与党の動向には深刻な憂慮を禁じ得ない。
3,よって,当会は,参議院で,改正案について幅広い視野で十分に議論を尽くすこと及び慎重な手続きの履践を求めるとともに,改正案が包含する問題点について,国民的議論の深化を強く期待し,今国会での,改正案の成立に反対すると共に参議院における慎重審議を求めるものである。
以上