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夫婦同姓の強制及び再婚禁止期間についての最高裁判所大法廷判決を受けて 家族法における差別的規定の改正を求める会長声明(H28/03/25)

夫婦同姓の強制及び再婚禁止期間についての最高裁判所大法廷判決を受けて家族法における差別的規定の改正を求める会長声明

2016年(平成28年)3月25日
香川県弁護士会
会長 馬 場 基 尚

1 平成27年12月16日,最高裁判所大法廷(寺田逸郎裁判長)は,女性のみに6か月の再婚禁止期間を定める民法第733条について,「婚姻をするについての自由は,憲法24条1項の規定の趣旨に照らし,十分尊重に値する」とした上で,6ヶ月の再婚禁止期間のうち「100日超過部分については,民法772条の定める父性の推定の重複を回避するために必要な期間ということはできない」として「同部分は,憲法14条1項に違反するとともに,憲法24条2項にも違反するに 至っていたというべきである」と判示した。再婚禁止期間のうち100日超過部分が憲法違反であるとした判断は評価できるが,当会は,この判示だけでは不十分であると考える。
夫婦や家族のあり方の多様化に加え,科学技術の発達が目覚しい今日,女性にのみ課される再婚禁止期間は全面的に廃止されるべきである。この点,鬼丸かおる裁判官の意見は,「父性の推定の重複回避のために再婚禁止期間を設ける必要のある場合は極めて例外的であるのに,文理上は前婚の解消等をした全ての女性(ただし,民法733条2項に規定する出産の場合を除く。)に対して一律に再婚禁止期間を設けているように読める本件規定を前婚の解消等の後100日以内といえども残しておくことについては,婚姻をするについての自由の重要性や…父を定めることを目的とする訴え(同法773条)の規定が類推適用できることに鑑みると,国会の立法裁量を考慮しても疑問である」と指摘した上で「本件規定は全部違憲であると考える」とする。また,山浦善樹裁判官の反対意見は,「DNA検査技術の進歩により生物学上の父子関係を科学的かつ客観的に明らかにすることができるようになった段階においては,血統の混乱防止という立法目的を達成するための手段として,再婚禁止期間を設ける必要性は完全に失われているというべきであり,本件規定はその全部が違憲であると考える」とする。これらの意見こそ説得的である。
2 また,同法廷は,夫婦同氏を強制する民法750条について,「婚姻の際に「氏の変更を強制されない自由」が憲法上の権利として保障される人格権の一内容であるとはいえない」,「夫婦同氏制それ自体に男女間の形式的な不平等が存在するわけではない」,さらに「夫婦同氏制が,夫婦が別の氏を称することを認めないものであるとしても,…直ちに個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠く制度であるとは認めることはできない」として,憲法13条,14条1項及び24条に違反しないと判断した。
しかしながら,夫婦同氏制度に全く例外を認めない民法第750条は,憲法13条,14条及び24条に反するのみならず,女性差別撤廃条約16条1項(b)が保障する「自由かつ完全な合意のみにより婚姻をする同一の権利」及び同項(g)が保障する「夫及び妻の同一の個人的権利(姓及び職業を選択する権利を含む。)」を侵害するものであり,同法廷の判断は遺憾である。
同法廷は,憲法24条への適合性を検討するにあたり,婚姻によって氏を改める者(現状ではその多くが女性)が抱くアイデンティティの喪失感や婚姻前の氏の使用により形成された個人の社会的な信用,評価,名誉感情等の維持の困難などの不利益の存在を認めながら,上記の不利益は通称使用の広まりにより一定程度緩和されうるとするが,これが,通称使用の限界や不都合を全く無視したものであるうえ,夫婦同氏に例外を設けないことの合理性を何ら基礎づけるものではないことは,岡部喜代子裁判官の意見,木内道祥裁判官の意見が指摘するとおりである。
また,岡部裁判官の意見は,「夫婦同氏に例外を設けないことは,多くの場合妻となった者のみが個人の尊厳の基礎である個人識別機能を損ねられ,また,自己喪失感といった負担を負うこととなり,個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚した制度とはいえない」と指摘し,「夫婦が称する氏を選択しなければならないことは,婚姻成立に不合理な要件を課したものとして婚姻の自由を制約するものである。」として,「夫婦が別の氏を称することを認めないものである点において,個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠き,国会の立法裁量の範囲を超える状態に至っており,憲法24条に違反するものといわざるを得ない。」し(櫻井龍子,鬼丸かおる裁判官,山浦善樹裁判官も同調),木内裁判官の意見は,「家族の中での一員であることの実感,夫婦親子であることの実感は,同氏であることによって生まれているのであろうか」と疑問を投げかけながら,「国会の立法裁量権を考慮しても,夫婦同氏制度は,例外を許さないことに合理性があるとはいえず,裁量の範囲を超えるものである」として「憲法24条に違反する」とする。これらの意見こそ説得的である。

3 1996年,法制審議会は,選択的夫婦別氏制度の導入及び再婚禁止期間の短縮等を内容とする「民法の一部を改正する法律案要綱」を答申した。また,国連の自由権規約委員会は女性のみに再婚禁止期間を定める民法733条について,同女性差別撤廃条約委員会は同規定に加えて夫婦同氏を強制する民法750条について,日本政府に対し,繰り返し,改正するよう勧告を行ってきた。法制審議会の答申から19年,女性差別撤廃条約の批准から30年が経過するにも関わらず,国会はこれらの規定を改正することなく放置してきたのである。
国会は,民法第733条について,100日超過部分につき速やかに改正をするにとどまらず全面的に廃止をすべきであり,民法第750条についても,速やかに,夫婦が別の氏を称することを認めるよう,改正するべきである。

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