労働者派遣法の改正に反対する会長声明
2014年(平成26年)8月19日
香川県弁護士会
会長 籠 池 信 宏
1 政府は,2014年(平成26年)3月11日,「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律等の一部を改正する法律案」(以下「改正法案」)を閣議決定し,同日,国会に提出した。改正法案は罰則規定の条文に誤記があったことから通常国会においては廃案となったものの,政府は秋の臨時国会において誤記部分を修正の上,改めて同内容の法案を提出する姿勢である。
2 改正法案は,①政令指定のいわゆる専門26業務の区分を廃止するとともに,②派遣元で無期雇用されている派遣労働者について派遣期間の制限を撤廃し,③有期雇用の派遣労働者については派遣可能期間を個人単位で3年とするが,派遣先の労働組合等の意見を聴取すれば,派遣労働者を入れ替え,継続して派遣労働者を利用することが可能となる内容となっている。
そもそも雇用は直接雇用が原則であり(労働基準法6条(中間搾取の禁止),職業安定法44条(労働者供給事業の禁止)),労働者派遣制度は直接雇用原則のもと,雇用慣行を阻害しない専門業務に対象を限定し,かつ,派遣労働者の雇用の安定のため期間制限を設けて臨時的・一時的な業務に限る形で例外として認められてきたものである。
しかし,上記のとおり,改正法案は,派遣元から無期雇用されている派遣労働者を永続的に派遣労働として利用すること,有期雇用の派遣労働者であっても,あらゆる業種・業務において,たとえ過半数組合等が反対したとしても,その意見を聴取するだけで,3年の制限なく派遣労働者を入れ替えることにより永続的に派遣労働を利用することを可能にするものであった。このような改正法案は,常用代替防止という基本理念に反するものである。
3 さらに,改正法案は,有期雇用の派遣労働者に対する雇用安定化措置として,派遣先への直接雇用の申入れ,新たな派遣就業先の提供,又は派遣元での無期雇用のいずれかの措置を派遣元が講ずるものとされている。
しかし,他の派遣先がない場合や,派遣元において無期雇用ができない場合など,派遣元がこれらの措置を講じない場合の私法的効力は付与されておらず,実効性が乏しいものである。
以上のような状況の下で,労働者派遣法の規制緩和が進めば,低賃金で不安定な派遣労働者の地位に固定される労働者を増大させ,格差・貧困の拡大につながることは容易に予測されるところであり,派遣労働者の保護を図り,もって派遣労働者の雇用の安定その他福祉の増進に資することを目的とする労働者派遣法の立法趣旨に逆流するものである。
4 以上のとおり,改正法案には常用代替防止の観点から重大な問題があり,労働者の労働条件を低下させその地位を不安定にすることにつながるものであるため,当会は改正法案に強く反対するとともに,派遣労働者の雇用安定と常用代替防止の維持のための労働者派遣法改正を行うよう求めるものである。
以 上