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「菊池事件」について検察官による再審請求を求める会長声明(H25/08/29)

「菊池事件」について検察官による再審請求を求める会長声明

2013年8月29日
香川県弁護士会
会長 小早川 龍司

ハンセン病元患者3団体は,2012年(平成24年)11月7日,検事総長に対して,いわゆる「菊池事件」について検察官が再審請求を行うよう求める要請書を,熊本地方検察庁に提出した。
同事件は,ハンセン病患者とされたF氏が,自分の病気を熊本県衛生課に通報した村役場職員を逆恨みして殺害した等として,1953年(昭和28年)8月29日に死刑判決の宣告を受け,1962年(昭和37年)9月14日に死刑執行された事件である。
同事件の訴訟手続は,「らい予防法」により一般社会とは隔離されていた国立療養所菊池恵楓園,あるいは,ハンセン病患者のみの受刑者が収容される菊池医療刑務支所に仮設された「特別法廷」において実質的に非公開で行われており,かつ,この「特別法廷」内においては,裁判官,検察官,弁護人がいずれも予防衣と呼ばれる白衣や手袋を着用し,記録や証拠物を火箸等で扱う等,ハンセン病に対する差別,偏見に満ちた取扱いがなされた。
さらには,被告人が殺人の公訴事実を一貫して否認しているにもかかわらず,第一審の弁護人は,罪状認否において「現段階では別段申し上げることはない」として争わず,また,検察官提出証拠に全て同意する等,実質的に「弁護不在」の審理がなされている。
同事件のこのような訴訟手続が,裁判の公開(憲法第82条),平等・公平な裁判(憲法第37条1項),適正な刑事手続(憲法第31条),弁護人による弁護(憲法第34条)を保障した憲法の規定に反し,被告人の裁判を受ける権利等を侵害するものであることは明らかであり,同事件において,本来人権を守るべき責務を負っている裁判官,検察官及び弁護人という法曹三者が,ハンセン病に対する差別・偏見により,自ら取り返しのつかない人権侵害を犯したと言わざるを得ない。
憲法違反の訴訟手続によって判決がなされて確定した場合,これを是正すべきは国家の責務であり,かかる観点から刑事訴訟法第439条1項は検察官を再審請求者の筆頭に挙げている。すなわち,検察官には,公益の代表者として訴訟手続の過ちを正すことが期待されているのである。
当会は,このような誤った審理や弁護活動がなされたことに,法曹三者の一員として遺憾に感じるとともに,公益の代表者たる検察官が,同事件について再審請求を行うことにより,憲法違反の手続による裁判を是正すべき責務を果たすことを強く求めるものである。

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