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司法修習生に対する給費制の復活を求める会長声明(H24/12/19)

司法修習生に対する給費制の復活を求める会長声明

平成24年12月19日

香川県弁護士会
会長 白井 一郎

1.平成24年11月27日から第66期司法修習生の修習が開始され,約2,000名の司法修習生が全国各地の地方裁判所所在地に配属された。香川県においても司法修習生が配属され,裁判所,検察庁,弁護士の指導の下,司法修習に励んでいるところである。
2.司法修習生は,それぞれ将来において司法の一翼を担う実務法曹としての高い専門性を習得するために1年間の司法修習に専念する義務を負い(裁判所法第67条第2項),兼業・兼職が禁止されているため修習期間中に収入を得る道はない。また,司法修習生は,全国各地に配属され,現在の居住地とは異なる地域で修習を行う者も多いため,引越費用や住居費などの出費を余儀なくされる者も多い。
こうした司法修習の実態を踏まえ,新第64期及び現行第65期までの司法修習生に対しては,この修習専念義務を負うことに対する経済的保障として,司法修習中の生活費等の必要な費用が国費から支給されていた(以下「給費制」という。)。しかし,昨年11月から司法修習を開始した新第65期司法修習生に対しては給費制は廃止され,司法修習費用を貸与する制度に移行し(以下「貸与制」という。),今後も貸与制が継続されることになっている。
3.現行法制下において法曹となるためには,原則として,法科大学院において2年又は3年の専門課程を履修,卒業して司法試験の受験資格を取得し,司法試験に合格する必要がある。このため,司法試験に合格するまでにも,法科大学院の費用として,入学金や年間授業料,生活費を負担する必要がある。さらに,家族がいる者は,その生活をも支えなければならず,司法修習生として採用されるまでに,多大な経済的負担を負わなければならない。このため,多くの法科大学院生が,これらの費用を奨学金等により賄っており,司法修習生として採用された時点で相当額の負債を抱えている者が多い。
こうした状況にあるにもかかわらず新第65期からは生活費等が給与制から貸与制に変更されたため,実務法曹になるためには法科大学院の奨学金等の返済負担に加え,司法修習期間中の生活費等についても返済負担を甘受しなければならない。
4.日本弁護士連合会は,こうした司法修習生の経済問題の実態を調査するため,本年6月,新第65期司法修習生に対し,司法修習中の生活実態を明らかにすることを目的としてアンケートを実施した。
このアンケートの集計結果によれば,28.2%の司法修習生が司法修習を辞退することを考えたことがあると回答し,その理由として,86.1%が貸与制,74.8%が弁護士の就職難・経済的困窮を挙げた。すなわち,司法試験に合格していながら,経済的理由から法曹の道をあきらめることを検討した者が30%近くもいる実態が明らかになった。
さらに,司法修習生の月平均の支出額は,住居費の負担がない場合が13万8,000円であるのに対し,住居費の負担がある場合は21万5,800円であった。司法修習の開始に伴い修習配属地への引越が必要だった司法修習生は,約60%を占め,この場合には,引越費用等で平均25万7,500円の負担が別途発生している実態が明らかになった。
以上のとおり,新第65期司法修習生に対する生活実態アンケートにより,配属地に自宅がある修習生とそうでない修習生で生活費に差が生じたり,配属地によっては多額の引越費用が必要になる等,貸与制が給費制に比して大きな不平等を生みだす不合理な制度であることが改めて明確となった。
前述の通り,司法修習生は法科大学院の奨学金等の返済義務を負っている。これに貸与制による生活費等の返済義務が加算されることになると,その経済的負担の重さや昨今の就職難が法曹志願者に対する事実上の参入障壁となり,有為で多様な人材を確保することは不可能である。
5.我が国の従来の法曹資格の取得については貧富の差を問わず広く開かれた門戸であり,決して「金持ちにしか法曹になれない制度」ではなく多様な人材が,裁判官,検察官,弁護士として輩出されてきた。この点は,非常に高く評価すべきであり,将来もそうであることが司法が担うべき役割を十分に果たすための不可欠の社会的要請である。
司法修習生は,修習終了後,大多数は裁判官・検察官・弁護士等となり司法の一翼を担う法曹実務家になる。こうした法曹実務家の存在は憲法上の要請であって,法曹実務家は基本的人権の尊重と社会正義の実現という司法に委ねられた使命を実現し公共的利益を支える担い手である。
こうした司法修習生が将来において司法の一翼の担い手として公共的利益を支えるべき存在であることに鑑みれば,修習に専念し実務法曹としての能力を獲得するための経済環境を整えることが,有為で多様な人材を確保するために何よりも重要である。
6.本年7月27日に成立した裁判所法の一部を改正する法律によれば,「司法修習生に対する適切な経済的支援を行う観点から,法曹の養成における司法修習生の修習の位置づけを踏まえつつ,検討が行われるべき」ことが確認された。これを受けて,同年8月21日の閣議により法曹養成制度検討会議が設置され,現在検討が進められている。

当会は,2009年(平成21年)10月15日に「司法修習生に対する給費制の存続を求める声明」を出して給費制の存続を求めてきたが,上記アンケートの実態を踏まえ,有為で多様な人材が経済的事情から法曹の道を断念することがないよう,早急に給費制復活を含む司法修習生に対する適切な経済的支援を求めるとともに,新第65期及び第66期の司法修習生に対しても遡及的に適切な措置が取られることを求めるものである。

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