香川県における最低賃金額の大幅な引上げを求める会長声明
令和7年6月4日
香川県弁護士会
会長 八 木 俊 則
1 令和6年度における香川県の最低賃金は1時間970円(令和6年10月2日発効)であり、令和5年度に比して52円の引上げとなっている。この金額は中央最低賃金審議会が改定の目安として呈示した引上げ額50円を上回るものであるが、改定後の最低賃金額は全国31位に留まっており、全国で最も高い東京都の最低賃金額(1時間1163円)と比較すると193円の格差が発生している。
また、香川県の隣県である徳島県では全国最大の上げ幅である84円の引上げを実現しており、地域別最低賃金が時間額表示に一本化された平成14年以降、初めて徳島県の最低賃金額(1時間980円)が香川県の最低賃金額(1時間970円)を上回ることとなった。
2 仮に香川県の上記最低賃金額で1日8時間、週40時間勤務したとしても、得られる収入は月収約16万8000円、年収約201万円に留まるものである。近年わが国においてはロシアのウクライナ侵攻を端緒とする国際的な原材料価格の上昇及び円安の進行によって急速な物価の高騰が続いているところ、令和6年度の実質賃金は令和5年度と比較して0.2%減少しており、3年連続で実質賃金が前年度を下回る事態となっており、賃金水準が物価高騰に追いついていない状況にある。特に食料品等生活必需品の価格高騰は、低所得者層を中心とした市民生活に重大な影響を及ぼしている。
日本国憲法第25条第1項は「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と定めており、また、最低賃金法第1条は同法の目的を「賃金の低廉な労働者について、賃金の最低額を保障することにより、労働条件の改善を図り、もつて、労働者の生活の安定、労働力の質的向上及び事業の公正な競争の確保に資するとともに、国民経済の健全な発展に寄与すること」と定めているところ、現在の最低賃金額の水準では労働者の健康で文化的な生活を確保することは困難である。
3 また、上述した最低賃金の地域間格差についても是正が必要である。最低賃金法第9条第2項は地域別最低賃金について、地域における労働者の生計費及び賃金並びに通常の事業の賃金支払能力を考慮して定められなければならないと定めるところ、このうちの労働者の生計費については、近年の調査研究によれば都市部と地方との間で大きな差がないことが明らかとなっている。これは、地方においては住居費が都市部よりも低廉であるものの、公共交通機関が都市部ほどには発達していないため、通勤及び日常生活を営むために自動車の保有が必須となり、そのための費用が発生することによるものである。
最低賃金の引上げは低所得者層の購買力を底上げし、需要を増大することでもあり、深刻化する若年層の都市部への流出、人口減少を食い止めるため、地方の最低賃金額を大幅に引き上げる形で地域間格差を是正する必要がある。
上述のとおり、徳島県は令和6年度に84円の引上げを決定したが、これは地理的に近い関西地方への労働力流出を防ぐために地域間格差を是正することを意識したものである。令和7年2月に日本弁護士連合会の実施した徳島県調査においては雇用情勢、経営状況において大きな変化が見られず、これらの点においては最低賃金の引上げによる弊害が生じていないことが確認された。
隣県である香川県においても地域間格差の是正は重要な課題であり、同様の積極的な取組が強く望まれるところである。
4 他方、最低賃金の引上げは、賃金を支給する使用者、特に中小企業・小規模事業者にとって経済負担となる。日本における従業者数の69.7%(香川県では87.0%)を中小企業が占める中、最低賃金の引上げと同時に賃金を支給する中小企業の経営を支援することも必要不可欠である。
そのためには、既存の業務改善助成金の拡充に留まらず、税制上の優遇措置や小規模事業者に対する社会保険料の使用者負担分の減免、原材料費・人件費の上昇を適正に価格転嫁するための制度設計など中小企業を対象とした施策も十分に検討されなければならない。
5 以上のとおり、当会においては、労働者の健康で文化的な生活を確保し、地域経済の健全な発展を促すため、中央最低賃金審議会に対し地域間格差を是正しながら全国の最低賃金を引き上げるよう答申することを求めるとともに、香川地方最低賃金審議会に対し、香川県の最低賃金を大幅に引き上げることを内容とした答申を香川労働局長に行うことを求める。
また、あわせて国及び香川県に対し、最低賃金額の引上げに伴う経済負担を軽減するため、中小企業・小規模事業者に対する抜本的な支援策を実施するよう求める。