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「大崎事件」再審請求の棄却決定に関する会長声明(R4.7.13)

「大崎事件」再審請求の棄却決定に関する会長声明

                                     2022年(令和4年)7月13日
                                     香川県弁護士会
                                     会長 古 屋 時 洋
1 鹿児島地方裁判所(中田幹人裁判長)は、2022年(令和4年)6月22日、いわゆる大崎事件第4次再審請求事件(以下「本件」という。)につき、再審請求を棄却する決定(以下「本決定」という。)をした。
しかし、以下で述べるとおり、本件では再審の開始が決定されるべきであったのであり、本決定は誤っている。

2 大崎事件は、1979年(昭和54年)、原口アヤ子氏(以下「アヤ子氏」という。)が、親族らと3名で共謀して被害者を殺害し、別の親族も加えた計 4名で共謀してその遺体を遺棄したとされる事件である。
確定審において、アヤ子氏は、一貫して無罪を主張したが、「共犯者」とされた親族3名の自白、その他の供述などを主な証拠として、懲役10年の有罪判決が下され、アヤ子氏は服役した。
しかし、その後もアヤ子氏の無実の訴えは変わらず、再審請求が繰り返された。
2002年(平成14年)3月26日、第1次再審請求審で、再審開始決定がなされたものの、検察官抗告による即時抗告審(高等裁判所)において同決定が取り消され、最高裁判所への特別抗告がなされたものの棄却された。また、2017年(平成29年)6月28日、第3次再審請求審において、再審開始決定がなされ、即時抗告審(高等裁判所)でも維持されたものの、2019年(令和元年)6月25日、特別抗告審(最高裁判所第一小法廷)は、同決定を取り消し、再審請求を棄却した。

3 最高裁判所は、いわゆる白鳥事件決定において、再審のための「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」とは、既に提出されている証拠(旧証拠)と新たに提出された証拠(新証拠)を総合して判断すべきとし、これによって確定判決の有罪の結論に合理的な疑いを示せば再審の道が開かれるとの原則を示した。
そして、当地香川県で発生した財田川事件において、いわゆる財田川決定は、この原則を具体的に適用するにあたって、確定判決が認定した犯罪事実が存在しないと確信に至るまでの必要はなく、確定判決における事実認定への疑いが合理的な理由に基づくものであることを示せば足りるとした。
両決定は、「疑わしいときは被告人の利益に」との刑事裁判の鉄則が再審にも適用されることを明らかにしたものである。
第1次再審請求審、第3次再審請求審及びその即時抗告審の判断は、この白鳥・財田川決定の判断基準からみて妥当なものであった。
しかし、第3次再審請求の特別抗告審において、最高裁判所は、それまで三度も白鳥・財田川決定の基準に基づいて再審を認める決定がなされていたにもかかわらず、検察官の特別抗告が法定の抗告理由に当たらないとする一方で、職権により、原決定及び原々決定の各再審開始を「取り消さなければ著しく正義に反する」と述べて取り消し、再審請求を棄却する決定を行なった。
これは、旧証拠の信用性を揺るがす新証拠が現れているのに、これを過少に評価し、再審請求における「疑わしいときは被告人の利益に」の鉄則を明らかにした白鳥・財田川決定を事実上覆し、両決定が開いた再審の扉を閉ざそうとしたものといえる。

4 アヤ子氏と弁護団は、これに挫けず、死亡時期に関する救命救急専門医の鑑定、確定審の証人2名の供述に関する供述心理の鑑定等を新証拠として、第4次再審請求を申し立てた。これが本件である。
もともと、アヤ子氏が一貫して無罪を主張する一方で客観的な証拠が乏しかったことに加え、第1次再審請求審、第3次再審請求審及びその即時抗告審において確定審で有罪を根拠づけた証拠の信用性に疑問が生じていたこと、そして、今回の第4次再審請求審において有力な新証拠が提出されたことからすると、新旧証拠を総合評価すれば、財田川決定のいう「確定判決における事実認定への疑いが合理的な理由に基づくものであること」は示されたといえる。

5 そうすると、本件においては、白鳥・財田川決定の判断基準、そして、無辜の救済という再審制度の趣旨に照らして、再審が開始されるべきであったのであり、再審請求を棄却した本決定は誤っているというほかない。
本決定は、第3次再審請求の特別抗告審に追従するものと言わざるを得ない。
むろん、再審開始決定は、再審における無罪の結論に直結するものではない。裁判所は、確定判決への疑いが存する場合には速やかに再審法廷を開き、そこで改めて事実を明らかにする審理を行えばよいのである。検察官は、再審法廷において堂々と有罪主張をすればよい。そうであるにもかかわらず、本決定や第3次再審請求の特別抗告審のように、白鳥・財田川決定を後退させ、「疑わしいときは被告人の利益に」との原則を軽視した判断をすることを許容することはできない。
このため、再審請求を棄却した本件決定を強く非難するとともに、早期に再審での審理を始めることを求めるものである。

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