出入国管理及び難民認定法改正案(政府案)に反対する会長声明
2021年(令和3年)3月25日
香川県弁護士会
会長 徳 田 陽 一
1 政府は、本年2月19日、出入国管理及び難民認定法改正案(以下「本法案」という。)を国会に提出した。
しかしながら、本法案は、難民認定申請中の送還の解禁(送還停止効の例外の導入)を始め、無期限収容、無令状収容を前提とする監理措置制度の創設、退去強制拒否罪等多数の退去強制手続関連の罰則の創設など多くの問題を含んでいる。
特に以下の点については問題が大きく、当会は、本法案に反対する。
2 本法案は、難民認定申請が複数回(3回目)に及んだ場合などにつき、申請中に本国への送還を禁止する仕組み(送還停止効)を廃止し、難民であるか否か(本国に帰国した際に迫害の危険があるか否か)を判断している間にも、本国へ送還できるようにしようとしている(本法案第61条の2の9第4項)。これは難民認定申請を繰り返すことで、送還停止効が濫用されているとの前提に立っているものと考えられる。
しかしながら、複数回申請が濫用であるというためには、難民認定制度が十分に機能していなければならないところ、2019年において難民認定申請のあった1万0375人のうち難民認定数はわずか44人(認定率0.42%)であることからも明らかなように、「難民鎖国」と称される日本の難民認定制度は機能不全に陥っている。このような難民認定制度の現状において、就労が禁止される中、やむを得ず、難民認定申請を繰り返すことでその命と生活を守ってきた者が存在することは事実である。それにもかかわらず、難民認定申請中の者を送還可能とすることは、国際社会において、日本政府による人権侵害への加担と評価されかねないものである。
この点、本法案では、送還停止効の例外に関して、「認定を行うべき相当の理由がある資料を提出した者を除く」とされ、また、送還先に含まれない国として、「その者が迫害を受けるおそれのある領域の属する国」が挙げられているが(本法案第53条第3項)、その判断に関する手続等は定められておらず、恣意的な運用の懸念がある。
今、政府がなすべきは、まず、救うべき人を救うべく、難民認定制度の質を改善することであって、過酷な状況に追い込まれながらもやむを得ずこの国で生きる難民申請者を送還できる仕組みの構築などではない。
3 次に、本法案は、在留資格を有しない人たちに在留資格を取得させる制度(在留特別許可制度)に関し、一定の犯罪を犯した者については原則として在留特別許可を認めないものとしているうえ(本法案第50条第1項ただし書)、許可を判断する際の考慮要素について広汎に認める一方(本法案第50条第5項)、許可の判断に関するその他の法的な規制を定めていない。
しかしながら、在留特別許可の運用の恣意性は、近年の許可率の急落(2011年の許可率は82%だったところ、2019年の許可率は65%であった。)からも明らかであり、運用で適切に判断するというだけでは事態の改善は望めない。
現行法の「その他法務大臣が特別に在留を許可すべき事情があると認めるとき」(現行法第50条第1項)という曖昧な要件を、例えば、本邦に生まれた子どもが一定期間本邦で成長したなどの一定の類型などに具体化し、これに関しては原則として許可すべきとの規定を設ける、あるいは、判断の考慮要素として、「児童の最善の利益」(児童の権利条約第3条)、「家族生活」(自由権規約第17条)などを規定し、これらの要素の重要性(重み付け)に関し法的な規制を課すことにより、在留特別許可の恣意的な運用に歯止めをかけることこそが必要なのである。
4 最後に、本法案では、退去強制令書が発付された者等について、条件を付して、監理人による監理の下に収容から解く制度として管理措置制度の創設が定められているが、同制度が創設されたとしても、人身の自由を奪われた外国人を解放するか否かが入管庁(出入国在留管理庁)の広範な裁量(運用)に委ねられている以上、長期収容問題の解消を期待することは困難である。
むしろ、今必要なことは、立法府による収容の必要性の要件の明確化、収容期限の設定、司法審査といった入管庁に対する法的な規制の導入である。
5 以上のとおり、当会は、外国人の権利利益を適切に保護するため、入管庁当局に対する法的な規制の導入を求めるとともに、本法案に対し反対するものである。