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いわゆる共謀罪法案の国会への提出に反対する会長声明(H28/11/08)

いわゆる共謀罪法案の国会への提出に反対する会長声明

2016年(平成28年)11月8日
香川県弁護士会
会長 平 井 功 祥

1 政府は,過去に3度廃案になったいわゆる「共謀罪」法案(以下「旧法案」という。)について,「共謀罪」を「テロ等組織犯罪準備罪」と名称を改める等したうえで,これを新設する法案(以下「提出予定法案」という。)を来年の通常国会に提出する方針であるとの報道がなされている。
当会は,2006年(平成18年)2月,2015年(平成27年)8月の2度にわたり,①共謀罪の構成要件が抽象的且つ主観的なものであり,準備行為を処罰対象としているため人の内心を処罰することにつながり,罪刑法定主義や既遂処罰を原則とするわが国の刑事法体系になじまないこと,②犯罪立証のために,人の会話や通信が捜査対象となり,憲法上最も尊重されるべき表現の自由や通信の自由などの基本的人権が侵害される危険性が極めて高いこと,③処罰のために捜査機関による自白偏重の捜査が行われる危険性が高いことなどを理由として共謀罪の新設に反対する声明を発してきたところ,今回の提出予定法案は,いくつかの修正が加えられたものの,なお,従来当会が指摘してきた問題点と同様の危険をはらんでいるため,改めて提出予定法案を国会へ提出することに強く反対するものである。
2 提出予定法案は,適用対象について,旧法案において単に「団体」としていたものを「組織的犯罪集団」としたうえで,犯罪の「遂行を2人以上で計画した者」を処罰することとし,その処罰にあたっては,計画をした誰かによって「犯罪の実行のための資金又は物品の取得その他の準備行為が行われたとき」という要件を付すものとなっており,一見,相当の修正がなされているように見える。
3 しかし,提出予定法案は,形式的には適用対象を限定したように見えるものの,以下のとおり,過去の旧法案の問題点が実質的には解消されていない。
(1)まず,提出予定法案でも,犯罪の遂行を2人以上で「計画」すること,すなわち,特定の犯罪を複数人で「共謀」するという準備行為を処罰すること自体に何ら変わりはなく,行為の実質的危険性や結果とは関係なく「合意」の危険性に着目して処罰しようというものに他ならない。
また,今般の修正によって,適用対象を「団体」から「組織的犯罪集団」に改めている点ついても,同集団は「目的が4年以上の懲役・禁錮の罪を実行することにある団体」と定義されており,目的という主観的要件がその判断基準となっている結果,その対象範囲は不明確なままであって,捜査機関の解釈によって広範に適用される危険性が高い。
さらに,「準備行為が行われたとき」との要件が加えられた点についても,広範な解釈が可能であるため,現在の予備罪や準備罪よりも危険性の乏しい行為まで捜査・処罰の対象に含められる危険性が高く,解釈運用如何によっては,同要件による限定が形式的で無意味なものとされかねない。
(2)共謀罪を摘発し,「計画」や「準備行為」を立証するために,市民の会話や通信等の監視が必要かつ極めて有用な捜査手法として用いられることになる点にも何ら変わりはなく,表現の自由や通信の自由など憲法上尊重されるべき基本的人権が国家によって脅かされる危険性は何ら解消していない。むしろ,司法取引制度(共犯者等の他人の犯罪事実の捜査や訴追に協力することと引き換えに不起訴や公訴取消等の恩典が付与される捜査・公判協力型協議・合意制度)を導入するとともに,通信傍受の対象犯罪を拡大することとなった,本年5月の刑事訴訟法・通信傍受法の改正と相まって,この危険性は拡大している。
適用対象犯罪が「長期4年以上の懲役又は禁固の罪」とされ,旧法案と同様に600を超えるままであることからみても,この危険性は重大なものである。
(3)したがって,提出予定法案における修正内容は,一見すると客観的に見える要件を「計画」,「目的」,「準備行為」といった要件の解釈によって主観的要件に転化し得るものであって,①内心を処罰する危険性,②主観的構成要件の立証のための捜査によって表現の自由に対する侵害や萎縮効果をもたらす危険性,③自白偏重の捜査が行われる危険性などは全く解消されていない。
4 政府は,すでに締結した国連越境組織犯罪防止条約(以下「パレルモ条約」という。)を批准し,「テロ対策」を実効性あるものにするため,「テロ等組織犯罪準備罪」の新設の必要性を前面に押し出して法案承認を求めていくことが予測される。
しかし,パレルモ条約は「組織的犯罪に対する有効な措置を国内法で定めること」を求めているものであり,批准各国に対して共謀罪や参加罪の新設を求めてはいない。この点,2015年(平成27年)8月の当会の会長声明で指摘したとおり,我が国においては,重大犯罪の予備罪や様々な特別法,判例法としての共謀共同正犯理論などが存在しており,このような新たな立法をせずとも「組織的犯罪に対する有効な措置」は十分に講じられているのであって,条約の批准は可能であり,共謀罪を新設する必要はない。
5 以上のとおり,提出予定法案は,形式的に適用対象・処罰要件を限定したように見せつつ,実際には,その処罰範囲を十分に限定したものにはなっていない。また,従来,指摘されてきた表現の自由の侵害や萎縮効果を生み出す危険性,自白偏重捜査の助長による基本的人権が侵害される危険性について何ら解消されていない上,条約批准のために「テロ等組織犯罪準備罪」の名を借りた「共謀罪」を新設する必要もない。
よって,当会は,改めて,提出予定法案の国会への提出に強く反対する。

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