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選択的夫婦別姓制度の早期の導入を求める会長声明(R7.1.10)

選択的夫婦別姓制度の早期の導入を求める会長声明

2025年(令和7年)1月10日
香川県弁護士会
会長 秋 月 智 美

 民法第750条は、「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する。」と定めて、夫婦同姓を義務付けている。しかし、婚姻前の姓の使用を希望する人も多く、また改姓により社会生活に不便を来している人もいる。さらには、夫婦同姓制度でなければ婚姻するが、これがために内縁関係というかたちを選択する人も存在する。
 まず、氏名は「人が個人として尊重される基礎であり、その個人の人格の象徴であって、人格権の一内容を構成する」(最高裁昭和63年2月16日第三小法廷判決)ものであることにかんがみれば、「氏名の変更を強制されない自由」もまた、人格権の重要な一内容として、憲法第13条によって保障されることは明らかである。それにもかかわらず、民法第750条の定めるところにより、婚姻により強制的に姓を変更させることは、人格権の侵害であり、憲法第13条に違反するところである。
 また、夫婦ともに婚姻前の姓を維持しようとした場合には、法律上婚姻ができず、その結果、婚姻による種々の法的効果を享受することができない。この点において、配偶者と別姓の夫婦になろうとする人と、同姓の夫婦になろうとする人との間には明確な差別的取扱いがあり、かかる取扱いに合理的根拠があるとは言えず、憲法第14条に違反する。加えて、憲法第24条第1項は「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有する」と定める。ところが、民法第750条は、婚姻に「両性の合意」以外の要件を不当に加重し、合意に基づいて婚姻をしようとする人々の意思決定に不合理な制約を課している。
 夫婦同姓を義務付けることは、憲法に違反するだけでなく、国際的な潮流にも反している。そもそも、夫婦同姓は明治時代に欧米にならって日本に定着したものと考えられているが、現代の欧米において、夫婦同姓を義務付ける国は見当たらない。国連女性差別撤廃委員会は、女性差別撤廃条約締結国である日本に対し、四度にわたり、女性が婚姻前の姓を保持することを可能にする法整備を勧告している。国際人権(自由権)規約委員会は、民法第750条が実際にはしばしば女性に夫の姓を採用することを強いている、との懸念を表明した。
 通称使用が幅広く認められてきているところではあるものの、結局のところ改姓による各種手続きや精神的苦痛を完全に除去し得るものではなく、限界がある。
 最高裁平成27年12月16日大法廷判決及び最高裁令和3年6月23日大法廷決定も、民法第750条を合憲としたものの、制度の在り方について「国会で論ぜられ、判断されるべき事柄にほかならない」として、国会の議論を促している。最高裁平成27年12月16日大法廷判決においては、最高裁判事5人が、最高裁令和3年6月23日大法廷決定においては、最高裁判事4人が、憲法に反する旨の意見を述べているところである。
 平成8年法制審議会の選択的夫婦別姓制度を導入する「民法の一部を改正する法律案要綱」の答申以来、既に四半世紀以上が経過しているにもかかわらず、制度の導入がなされていない。
 以上の事情を踏まえ、当会は、選択的夫婦別姓制度を直ちに導入すべく、改めて強く求めるものである。

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