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「有事法制三法案」に反対し、その廃案を求める(H14/07/12)

「有事法制三法案」に反対し、その廃案を求める

平成14年 7月12日

香川県弁護士会
会長 平井 範明

政府は、本年4月17日、衆議院に「武力攻撃事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律案」、「安全保障会議設置法の一部を改正する法律案」及び「自衛隊法及び防衛庁の職員の給与等に関する法律の一部を改正する法律案」(以上を「有事法制三法案」という)を上程した。
日本弁護士連合会は、4月20日の理事会において、憲法原理に照らし、以下の重大な問題点と危険性が存在するとして、有事法制三法案に反対し、同法案の廃案を求める決議を採択しこれを公表した。当会としても、これら法案には少なくとも以下のような憲法上の疑義があることから、有事法制三法案に反対してその廃案を求めるものである。

  1. いったん内閣によって「武力攻撃事態」の認定が行われると、陣地構築、軍事物資の確保等のための私有財産の収用・使用、軍隊・軍事物資の輸送、戦傷者治療等のための市民に対する役務の強制、交通、通信、経済等の市民生活・経済活動の規制などが行われることになり、市民の自由権など基本的人権が大きな制約を受けることになる。
    しかし、かかる規制は憲法の中核を構成する「基本的人権の保障」の原理と真っ向から対立するものである。
  2. 武力攻撃事態法案では、上記のように、大幅な基本的人権制約の要件、そして政府に強力な権限が与えられる要件として、「武力攻撃事態」をあげる。
    ところが「武力攻撃事態」とは、「武力攻撃が発生した事態」のみならず「武力攻撃のおそれのある事態」や「事態が緊迫し、武力攻撃が予想されるに至った事態」まで含むとされており、その範囲・概念は極めて曖昧であって、政府による恣意的認定とそれに基づく運用がなされるおそれがある。
  3. かかる曖昧な概念の下に、内閣による恣意的な認定による「武力攻撃事態」における自衛隊の行動は、まさに憲法の定める平和主義の原理、憲法9条の戦争放棄、戦力の不保持及び交戦権の否認に抵触する可能性がある。
  4. 武力の行使、情報・経済の統制等を含む幅広い事態対処権限を内閣総理大臣に集中すること、また内閣総理大臣の地方公共団体に対する指示権及び地方公共団体が行う措置を直接実施する権限は、中央の統一権力の強大化を押さえ、もって基本的人権を守ろうとする地方自治の本旨に反し、さらには憲法が定める民主的な統治構造を大きく変容させ、民主主義の基盤を侵食する危険性を有する。
  5. 武力攻撃事態では、日本放送協会(NHK)などの放送機関を指定公共機関とし、これらに対し、「必要な措置を実施する責務」を負わせ、内閣総理大臣が、対処措置を実施すべきことにより、政府が放送メディアを統制下に置き、市民の知る権利を侵害し、メディアの権力監視機能、報道の自由に制約を加えることが可能となっている。
    しかし、報道の自由は、国民の知る権利に奉仕し、ひいては民主主義的政治過程を実現する根本的な価値を有するものであって、これらに対する上記制約は民主的政治過程の根幹を崩壊させる危険を有する。
  6. 以上のように、有事法制三法案は、武力または軍事力の行使を許容するための強大な権限を内閣総理大臣に付与する授権法であり、それゆえに、法案は憲法の根幹に関わる部分すなわち基本的人権の保障と平和主義を侵害し、民主的な統治構造を変容する危険性を本来的に包含しているものである。
    また、有事法制の必要性及びその内容については、様々な意見が存するところであり、その性質上も広く国民的な議論を尽くしたうえで国会に上程するべきものである。しかし、今回のこれらの法案の国会上程は、国民的議論抜きで唐突であるとのそしりを免れるものではない。

当弁護士会は、基本的人権尊重の原理、平和主義、国民主権原理という憲法原理に抵触するのではないかという重大な疑義がある有事法制三法案について、同法案の問題点を国民に明らかにし、国民が十分に議論する機会が与えられないままに同法案が成立するに至ることに強く反対し、その廃案を求めるものである。

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