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香川県及び県下の各市町に犯罪被害者等支援条例の制定を求める会長声明(R01/11/14)

香川県及び県下の各市町に犯罪被害者等支援条例の制定を求める会長声明

2019年(令和元年)11月14日
香川県弁護士会
会長 堀 井 実

1 犯罪被害者等支援についてのこれまでの動き

長年、犯罪等(犯罪被害者等基本法第2条第1項が定義する犯罪及びこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす行為をいう)を巡る施策は、犯罪等の抑止や加害者の更生等に重点がおかれてきた。その陰で、犯罪被害者等(同法第2条第2項が定義する犯罪等により害を被った者及びその家族又は遺族をいう)は、その権利が尊重されてきたとは言い難く、十分な支援を受けられなかった。しかし、近年、徐々にではあるが、犯罪被害者等の支援については、着実な広がりを見せてきた。
平成16年には、「犯罪被害者等基本法」が制定され、犯罪被害者等の権利や、支援を受けられるための施策についての国及び地方公共団体の責務が定められた。平成20年には、「犯罪被害者等給付金支給法」が「犯罪被害者等給付金の支給等による犯罪被害者等の支援に関する法律」に改正された。平成28年には、「第3次犯罪被害者等基本計画」が策定された。
他方、日本弁護士連合会は上記各種立法に先立つ平成15年に「犯罪被害者の権利の確立とその総合的支援を求める決議」を採択し、犯罪被害者支援施策の充実を訴えてきた。四国弁護士会連合会においても平成28年に「性犯罪及び性暴力の被害者の支援強化に取り組む宣言」が採択されており、当会も弁護士による犯罪被害者等の権利の確立と支援のため、関連機関と連携して日々支援活動を行っているところである。
そして、平成29年10月5日、日本弁護士連合会第60回人権擁護大会において、更なる犯罪被害者等支援施策の拡充のため、「犯罪被害者の誰もが等しく充実した支援を受けられる社会の実現を目指す決議」が採択された。同決議においては国及び地方公共団体に対し、損害回復の実効性の確保や犯罪被害者等への経済的支援、性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターの整備の他、「全ての地方公共団体において、地域の状況に応じた犯罪被害者支援施策を実施するための、犯罪被害者支援条例を制定すること」を要求しており、犯罪被害者支援条例の制定を今後の犯罪被害者支援施策の中核の一つとして位置付けている。

2 犯罪被害者等支援の現状

このように、犯罪被害者等への支援は、徐々に拡充されてきたものの、未だに十分と言うには遠く及ばない状況である。
犯罪等による被害について第一義的責任を負うのはもとより加害者であるが、加害者には十分な資力のない場合が多く、犯罪被害者等が加害者から十分な補償を得ることは難しい。
国が定めている「犯罪被害者等給付金の支給等による犯罪被害者等の支援に関する法律」による給付金は、要件が厳しい上に、支給までの期間も平均6か月を要し、金額も自動車事故における自動車損害賠償責任保険や政府保証事業の水準と比較してはるかに低額で、併給調整もなされるものにとどまっている。そして、犯罪被害者等の支援は、そもそも、経済的な補償だけにとどまるものではなく、様々な初期支援が重要であるとともに、きめ細やかな対応が必要である。
地方公共団体において、いわゆる安全安心条例を制定している例は多数存在するものの、安全安心条例は、そもそも犯罪等が発生することを抑止する観点からの条例であり、犯罪被害者等支援の具体的な内容について定めたものではない。

3 犯罪被害者等支援条例の必要性

前述したように、犯罪被害者等の支援は、様々な初期支援が重要であるとともに、きめ細やかな対応が必要であるため、犯罪被害者等の支援を充実させていくためには、国レベルだけでなく、犯罪被害者等にとってより身近な存在である地方公共団体による支援が欠かせない。
例えば、新たな住居を必要とする犯罪被害者等の支援に際しては、公営住宅の事業主体である地方公共団体にしか行えない支援が存在する。このように、犯罪被害者等が被害後に日常生活を続けていく上で必要な福祉・保健サービス、具体的には、家事・育児・介護等に関するサービス、公営住宅の利用、雇用支援、保健医療に対する助成等は、地方自治体が本来地域住民に対して行っているサービスである。犯罪被害者等の支援に際しても、これらの支援は、地方公共団体が担うべきである。
犯罪被害者等基本法第5条は、地方公共団体に対し、地域の状況に応じた施策を策定し実施するべき責務を負わせている。また、第3次犯罪被害者等基本計画においても、国による支援のみならず、地方公共団体における総合的かつ計画的な犯罪被害者等支援の促進が掲げられている。犯罪被害者の権利を保障し、その実現を図るべき責務は決して国のみが負うものではなく、地方公共団体が主体的に取り組むことが要求されているものである。
そして、地方公共団体が犯罪被害者等の支援を充実させていくにあたっては、要綱や行政計画等による対応ではなく、犯罪被害者等支援条例を制定することにより、犯罪被害者支援の法的根拠を明確にし、継続性・永続性を担保することで、全ての犯罪被害者等に対し、確実に、質の保障された、途切れない支援が行われるようにする必要がある。
そして、犯罪等そのものを抑止しようとするいわゆる安全安心条例と、それでも防ぎきれない犯罪等による被害者等を支援する犯罪被害者等支援条例が、いわば車の両輪となって、安心して暮らせる地域社会が実現されるのである。

4 犯罪被害者等支援条例に求められる内容

無論、単に犯罪被害者等支援条例という名称の条例が制定されるだけでなく、その内容は具体的で充実したものであることが求められる。
市町は、住民の生活に密着したサービスの多くを担っており、犯罪被害者等の生活場所とも最も近い存在である。したがって、市町には、専門的な職員を配置した総合支援窓口の設置、既存の住民サービスの犯罪被害者等支援への活用、犯罪被害者等を対象とした新たなサービスの整備、簡易かつ迅速な手続による生活費の支給等の支援が特に求められる。
県には、市町よりも豊富な人員や予算を生かし、補償金・支援金・見舞金等のより大規模な経済的支援、県民への広報啓発等の広域にわたる施策、市町の犯罪被害者等支援担当者への研修の実施等の市町による犯罪被害者等支援のバックアップ等の支援が特に求められる。
そして、共通する内容として、二次被害及び再被害の防止は不可欠である。
以上の内容は、必要最低限のものであるが、各地方公共団体の実情に合わせて、一層充実した内容の条例の制定が必要である。
例えば、三重県では、平成31年4月に、三重県犯罪被害者等支援条例が施行され、同日から、都道府県としては初となる犯罪被害者等見舞金の支給が開始した。その他、同条例には、適切な医療サービスや福祉サービスの提供、二次被害及び再被害防止のための安全・居住の確保、雇用の安定のための職場環境の整備促進等の支援施策がある。
また、明石市犯罪被害者等の支援に関する条例においては、300万円を上限とした加害者に対する損害賠償金の立替制度の他、犯罪被害者等の声を反映させた時効中断のための再提訴の費用の補助、未解決事件の真相究明に要する費用の補助等、全国に先駆けた独自の支援がある。

5 犯罪被害者等支援条例制定の動き

このような、地方公共団体における犯罪被害者等支援条例制定の必要性についての認識が広まるにつれ、全国各地で、犯罪被害者等支援条例を制定する動きが広まっている。
都道府県単位の条例で言えば、平成29年4月時点において条例が制定されていたのは47都道府県中9県であったところ、平成31年4月には17道府県にまで増加し、令和2年度には20都道府県となる見込みである。
また、市区町村単位では、平成29年4月時点において1721市区町村中183市区町村に留まっていたところ、平成31年4月には272市区町村にまで増加している。
しかしながら、香川県内においては、残念ながら、いずれの地方公共団体においても未制定である。
このままでは、同じような犯罪被害に遭った被害者等が、条例の制定されている地域に居住していれば支援を受けられるのに、条例の制定されていない香川県内に居住していると支援を受けられないという格差が生じてしまう。香川県が掲げる「主体的に参画し、ともに支え合い、誰もがその人らしく安心して暮らせる地域共生社会の実現」(香川県地域福祉支援計画)という理念を指摘するまでもなく、かかる状況は地域社会にとって由々しき事態である。
かかる状況を踏まえ、当会は、本年8月31日に、シンポジウム「香川県にも犯罪被害者支援条例を!」を開催した。当シンポジウムには、多数の地方議会議員や行政職員も参加し、終了後には多くの質問もあり盛り上がりを見せた。
その後、香川県においても、県議会において、犯罪被害者等支援条例についての代表質問が行われるなど、条例制定に向けた具体的な動きが始まってきており、このような動きが今後広まっていくことが切に期待される。

6 結論

香川県及び県内の市町に対し、一日も早く、充実した犯罪被害者等支援条例を制定し、安心して暮らせる地域社会の実現を図るよう求める。
具体的には、県に対しては、犯罪被害者等見舞金の支給、適切な医療サービスや福祉サービスの提供、二次被害及び再被害防止のための安全・居住の確保、雇用の安定のための職場環境の整備促進等の支援施策、さらには県下の各市町の指針となるべき施策・各市町の犯罪被害者等支援担当者への研修の実施等の市町による犯罪被害者等支援のバックアップ等の施策、県民への広報啓発等の広域にわたる施策を盛り込んだ条例の制定を求める。
県下の各市町に対しては、専門的な職員を配置した総合支援窓口の設置、既存の住民サービスの犯罪被害者等支援への活用、犯罪被害者等を対象とした新たなサービスの整備、簡易かつ迅速な手続による生活費の支給等の支援を盛り込んだ条例の制定を求める。

以 上

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