いわゆる共謀罪の創設を含む組織的犯罪処罰法改正案の廃案を求める会長声明
2017年(平成29年) 6月14日
香川県弁護士会
会長 滝 口 耕 司
1 2017年(平成29年)5月23日,衆議院本会議において,組織的犯罪処罰法改正案(以下「本法案」という。)の採決が強行され,衆議院を通過した。
 政府は,本法案において,「共謀罪」を「テロ等準備罪」との名称に変えるとともに,適用対象を「組織的犯罪集団」に限定した上,処罰のためには2人以上での犯罪の「計画」に加えて,「準備行為」を要件としたとして,これまで廃案になってきた共謀罪法案とは異なるとする。
 しかし,本法案は,従前の法案で指摘されてきた問題点を何ら克服できていない。


2 すなわち,「組織的犯罪集団」の定義は曖昧であって,活動目的の認定次第で一般市民・市民団体も含みうるものである上,「計画」は共謀と何ら変わりない。むしろ,「共謀」に替えて「計画」という日常語を用いて要件としたことで,その内容は不明確なものとなっているとさえいえる。また,「準備行為」の概念も,広範かつ曖昧なものであって,それ自体は犯罪性のない日常生活上の活動が「準備行為」とみなされる危険性をはらんでいる。 
 このように,本法案は,曖昧かつ解釈運用で広範に適用しうる要件を定めている。
 この点,刑罰法規は,国民の権利を制限する度合いが強いがゆえに,刑罰の対象となる行為とそうでない行為が一般国民にとって理解できるような明確なものでなければならない。これは,明確性の原則と呼ばれる刑罰法規の大原則である。
 しかし,本法案は,この明確性の原則に反する。
 このことは,衆議院法務委員会における政府答弁や参考人質問等を経てもなお,どのような者がどのような場合にテロ等準備罪で処罰されるのかが判然とせず,現在に至っても議論対立があることを見ても明らかである。


3 上記のとおり,本法案は,要件の解釈次第で,一般市民・市民団体が「計画」した内容を,捜査対象とすることができ,その者の日常生活上の行動を捉えて「準備行為」があったと認定して処罰することができるものとなっている。
 そして,「計画」を捜査対象とするためには,電話・メール・SNS等のコミュニケーションツールが監視の対象となることは避けがたい。現に,本法案の衆議院通過に前後して,通信傍受の拡大論が取り沙汰されている。
 これは,私生活上の個人の思想やコミュニケーションが監視される点において,大きなプライバシーの侵害であり,通信の秘密の侵害である。また,思っていることを言葉にすることを委縮させる点において,表現の自由の侵害に他ならない。


4 また,政府は,2020年東京オリンピック・パラリンピックの開催を控える中,本法案がテロを含む組織犯罪を防止するためのものであるとする。
 しかし,本法案で対象となっている277の罪の中には,組織犯罪やテロ犯罪とは無関係の犯罪が多数含まれており,その対象の選択は極めて恣意的なものである。
 そして,より重要なのは,この277の罪に共謀罪を設けることで,我が国が刑罰法規の大原則のひとつとしてきた侵害原理に反する点である。
 すなわち,国が刑罰権を行使できるのは,他者の権利・利益を侵害し,あるいは侵害の危険を現実化する行為(内心・思想にとどまらない外部的行為)に及んだ場合とされてきた。このため,実行に着手したものの侵害結果が発生しなかった「未遂」ですら限定的に処罰することとされてきたのである。そうであるにもかかわらず,本法案は,277もの主要な犯罪について,「未遂」すら処罰されない犯罪であっても,未遂のはるか手前にある「計画」の段階で処罰することを可能とするものであって,これまでの刑罰法規の大原則を根底から覆すものである。


5 現在,国会において,テロ対策の美名のもと,そして,国連越境組織犯罪防止条約(以下「条約」という。)の批准に必要があると称して,政府・与党が多数の力によって本法案を成立させようとしている。
 しかし,本法案は,上記のとおり,我が国のこれまでの刑罰法規の大原則に反し,一般市民・市民団体のプライバシーや表現活動等に多大な影響を及ぼしかねないおそるべきものである。その危険性については,国連特別報告者ジョセフ・ケナタッチ氏が安倍総理に宛ててその不明確性や国民の権利侵害の危険性を指摘する書簡を送る等しているほどである。
 他方,本法案によらずとも,我が国には重大犯罪やテロ犯罪に対して,刑法の陰謀罪や銃砲刀剣類等取締法を始めとする様々な特別法がある上,共謀共同正犯の判例理論も存在し,十分に対応しうる。このため,現状のまま条約を批准することに何ら差支えはない。また,同条約に基づく各国の立法作業の指針である立法ガイドを執筆した刑事司法学者ニコス・パッサス氏は,同条約がテロ防止を目的としたものではないと明言した上,新たな法案等の導入を正当化するために条約を利用してはならないと警鐘を鳴らしている。


6 そうであるにもかかわらず,現政府は,本法案を,条約に基づくテロ対策のものであり,テロを含む組織犯罪という限定的な対象を処罰するためのものであるとする。
 しかし,我々は,国が,政府が,曖昧で解釈運用がいかようにもなる法律を用いて国民の自由と権利を侵害してきた歴史を知っている。
このような不必要,かつ,大きな危険性をはらむ本法案を成立させるわけにはいかない。
 今こそ,我が国が,国民の自由と権利を守る民主主義国家であり続けるため,また,国際社会に対して,理性的で自由を愛する国家であることを示すためにも,国会審議において本法案の持つ危険性をしっかりと認識し,本法案を廃案とすることを強く求める。