勧 告 書
2015年(平成27年)10月19日
高松刑務所
所長 赤 羽 和 久 殿
香川県弁護士会
会長 馬 場 基 尚
 当会は、申立人A氏(以下、「申立人」という)からの人権救済申立事件について、当会人権擁護委員会の調査結果に基づき、貴所に対し、下記の通り勧告いたします。
勧告の趣旨
 貴所が、未決拘禁者として勾留中であった申立人について、平成26年6月25日から少なくとも平成27年5月28日までの間、監視カメラ付きの居室に収容を継続し、終日監視カメラによる動静監視の下に置いた処置は、申立人のプライバシー権を侵害したものである。
 今後、被収容者を監視カメラ付きの居室に収容する場合、被収容者のプライバシー権に配慮した内規・基準等を設け、慎重に収容の開始およびその継続の要否を判断するよう勧告する。
勧告の理由
第1 申立の趣旨
 申立人は、未決拘禁者として高松刑務所に収容されている者であるところ、平成26年6月25日、監視カメラが設置され、便座、鏡及びタオル掛け等が取り外された居室(以下、「監視カメラ付き居室」という)に収容され、申立当時に至るまで同室への収容が継続している。
 監視カメラ付き居室に収容されたのは、申立人が高松刑務所に対し、同所の職員が申立人の信書を紛失した旨訴えたところ、申立人が嘘を吐いていると言われたことが原因である。
高松刑務所の上記処置は、申立人の人権を侵害する不当なものであり、人権救済を求める。
第2 当会からの照会に対する高松刑務所の回答の要旨
1 監視カメラ付き居室の設置状況
 高松刑務所内に、監視カメラを設置した居室は約40室存在し、全居室のうちの約1割を占める。監視カメラ付き居室における監視カメラの作動状況、録音録画の有無については保安警備上の支障を理由に回答できない。
 居室の種類には一般居室と保護室があり、一般居室の中には、通常の居室の他、蛇口や鉄格子等自殺に繫がる危険のある備品設備を排除した自殺防止のための居室(以下、「自殺防止房」という)が存在する。監視カメラの設置と居室の構造は必ずしも一致せず、通常の一般居室と同様の構造の部屋に監視カメラを設置する部屋もあれば、自殺防止房に監視カメラを設置した部屋もある。
 同所としては、監視カメラ付き居室はあくまで一般居室の一種であり、監視カメラは職員の巡回を補完するものという理解である。

2 監視カメラ付き居室の収容要件
 監視カメラ付き居室への収容開始及び継続について、特別の要件・手続は一切存在しない。
 原則としては、自殺自傷のおそれ等動静観察の必要が高く、看守の巡回視察のみでは対応困難な事情がある場合に、看守の巡回視察を補完する目的で監視カメラ付き居室を利用している。
 監視カメラ付き居室への収容以外の動静視察強化の手段としては、居室前で職員が対面して戒護する方法がある。

3 申立人の監視カメラ付き居室収容に係る具体的事情
(1) 申立人の居室
 申立人が収容されているのは、未決独居室のうち、自殺防止房に監視カメラが設置された部屋である。
(2) 監視カメラ付き居室への収容開始
 平成26年6月25日以降、平成27年5月28日(最終の照会回答時点。それ以降の収容継続の有無は不明。以下同様。)まで同一の居室で収容を行っている。
 申立人を監視カメラ付き居室に収容したのは、申立人が正当な理由なく大声を上げて拘置棟の静穏な環境を害する等、反則行為を累行しており、綿密な動静視察が必要なためである。
 また、申立人は職員に対して虚偽の申出を行うことが多く、これを抑止するためにも監視カメラ付き居室への収容が必要であった。
 なお、申立人について自殺自傷や他害のおそれはない。
(3) 監視カメラ付き居室への収容継続
 申立人は監視カメラ付き居室への収容後も、頻繁に懲罰対象行為を繰り返す状況にあった。申立人の状態が改善されないことから、平成27年5月28日まで収容を継続したものである。
(4) 申立人主張の事実関係について
 平成26年6月25日以降の監視カメラ付き居室への収容は、申立人主張の事実が原因ではなく、申立人が薬の処方が間違っていると主張し、職員の制止に従わずに「医務を呼べ」等大声で怒鳴ったことが原因である。

第3 当会の判断
1 当会の認定事実
 申立人は、高松刑務所に収容されていた未決拘禁者であるところ、平成26年6月25日から少なくとも平成27年5月28日までの間、高松刑務所内の監視カメラ付き居室に収容された。
 監視カメラ付き居室は一般居室の一形態として取り扱われており、収容の開始及び収容継続についての規程ないし基準は存在しない。
なお、申立人について自殺自傷や他害のおそれはない。

2 監視カメラ付き居室の収容基準について
 高松刑務所は監視カメラ付き居室につき、一般居室の一形態である旨主張する。
 しかし、監視カメラ付き居室への収容は、被収容者の動静を24時間いつでも継続的に監視することを可能とするものである。また、被収容者にとっては、監視カメラの作動の有無にかかわらず、終日監視カメラによる動静視察を意識して生活することを強いられるという意味において、四六時中その動静を注視されているのと同じ効果と影響を持つものである。これらの点で、監視カメラ付き居室への収容は、一般居室への収容とは質的に異なり、一般居室の一形態と位置づけることはできない。
 そうであれば、そもそも刑事施設への収容自体が被収容者の動静視察にあたり、一定のプライバシー侵害を予定していることを考慮に入れても、以上のとおり、監視カメラ付き居室への収容によるプライバシー侵害は、なお極めて強度のものであるといえる。
 そこで、監視カメラ付き居室への収容は、自殺自傷のおそれ等、被収容者の生命身体に対する危険や、それらに準ずる重大な危険があり、他のより制限的でない手段によっては目的が達成できない場合に限って実施すべきである。
 また、監視カメラ付き居室への当初の収容開始自体がやむを得ない場合であっても、保護室への収容につき期間制限を定めた刑事収容施設法79条3項・4項の趣旨に鑑み、監視カメラ付き居室への収容継続についても定期的な見直しを行い、収容の必要が消滅した場合は速やかに収容を中止すべきである。

3 本件における判断
 高松刑務所は、申立人を監視カメラ付き居室に収容した理由として、申立人が正当な理由なく大声を上げて拘置棟の静穏な環境を害する等、反則行為を累行していたこと、申立人が虚偽の申出を頻繁に繰り返していたことから、申立人について綿密な動静視察が必要であったことを主張する。
 しかし、本件において、申立人に自殺自傷や他害行為のおそれをうかがわせる言動がないことは同所も認める事実であり、申立人を監視カメラ付き居室に収容し、監視カメラによる24時間の監視下に置かなければならないほどの重大な危険は認められない。
 したがって、申立人の反則行為等を防止し、刑事施設内の秩序を維持する必要性が認められうるとしても、かかる目的を達成する手段としては、看守の巡回視察を強化する等、より権利侵害の程度の低い他の手段によるべきである。また、高松刑務所が申立人の監視カメラ付き居室への収容継続の要否について、定期的に見直し、具体的な検討の機会を設けていた事情もうかがわれない。
 以上からすれば、本件において、申立人を監視カメラ付き居室に収容し、かつ少なくとも約11か月もの長期にわたりその状態を継続する合理的理由は存在しない。

第4 結語
 以上の通り、高松刑務所が申立人を監視カメラ付き居室に収容し、かつ少なくとも約11か月にわたり同室への収容を継続した措置は、申立人のプライバシー権を不当に侵害するものであるから、上記のとおり勧告する。
以上