少年法の適用年齢引下げに反対する会長声明
2015年(平成27年)6月5日
香川県弁護士会
会長 馬 場 基 尚
 自由民主党は,少年法の適用年齢を18歳未満に引き下げること等について,「成年年齢に関する特命委員会」(以下「特命委員会」という。)を設置して本年4月14日から検討を始めたと報道されている。
しかし,以下のとおり,少年法の適用年齢を引き下げるべき理由はない。
1.少年犯罪は減少を続けていること
  報道によると,特命委員会の議論においても,続発する凶悪な少年犯罪を踏まえ,少年法の成人年齢も引き下げるよう求める意見が相次いだとされている。しかし,その認識は明らかに誤っており,少年犯罪は増加していない。
  少年による刑法犯の検挙人員は,ピークだった1983年は31万7,438人であったが,2013年は9万413人にまで減少している。少年による殺人事件(未遂も含む。)は,1965年頃までは年間四百数十件発生していたこともあったが,近年まで減少傾向を明確に示しており,2014年は五十件であった。
2.少年法が少年犯罪の減少に寄与してきたこと
  また,報道によると,特命委員会では,重大な少年事件の背景には少年法の甘さがあると主張されたとされているが,これも客観的事実と異なる。
  成人と異なり,少年司法手続においては,18歳,19歳の少年は,罪を犯せばすべて家庭裁判所に送致される。家庭裁判所においては,少年法9条の定める科学主義に基づき,医学,心理学,教育学,社会学その他の専門的知識を駆使して,少年自身の資質上の問題を少年鑑別所で詳細に調査し,また家庭裁判所調査官は,家族や交友関係と少年との問題について生育歴にも深く踏み込み,少年の保護者も呼び出して面接し,事件が生じた原因を解明するための調査が徹底的になされ,これらの調査に基づいて再非行を防ぐために適切な処分が決定されてきた。その結果を受けて,前述のように少年犯罪は減少を続けてきた。
このように,少年法の処遇は犯罪の減少に効果を上げてきた。
3.適用年齢を引き下げた場合に少年の再犯リスクを高めるおそれがあること
  仮に少年法の適用年齢を18歳未満に引き下げると,18歳及び19歳の少年は成人の刑事手続で処分されることになる。その結果,少年鑑別所技官や家庭裁判所調査官によって非行原因の調査がなされることはなくなるし,保護者への関わりもなくなる。少年院で徹底した教育がなされることもなくなる。このような変更は,少年の再犯リスクを高めて治安を悪化させる原因になりかねない。
また,検察統計によると,2013年の刑法犯の起訴率が16.9%に過ぎないことからすれば,それまでは全件が家裁に送致されて保護観察処分を受けたり少年院に送致されたりしていた18歳と19歳の少年の事件が,成人後の初犯として起訴猶予とされ,むしろ多くのケースで少年法の手続と比べて処分が軽くなるという結果も予想される。
4.重大事案の処罰は適用年齢を引き下げなくても可能なこと
  適用年齢引下げの議論は重大事件を念頭に置いてなされていると思われるが,現行の制度においても,重大な少年犯罪については検察官に送致して成人と同じ刑事裁判を受けさせることが可能である。少年が刑事裁判を受けた場合の刑罰についても,2014年6月に厳罰化する方向での改正が行われたばかりである。この改正の結果の検証もないままにまた改正が行われるのは,非科学的な議論であるとの誹りを免れない。
5.法律ごとに適用年齢は個別に定められる必要があること
  公職選挙法の改正によって選挙権が18歳から与えられたからといって,少年法がそれに連動すべきという理由はない。法律の適用区分はその法律ごとの目的に応じて個別に決められるべきものである。例えば,民法では法律行為の能力をもつのは20歳とされているが,親の承諾なく養子縁組ができるのは15歳からとされている。これらは選挙権の付与とは違う目的で定められているのであり,18歳に統一する必要はないし,すべきでもない。
6.結論
  以上のとおりであるから,当会は,少年法の適用年齢の引下げに強く反対するとともに,本件に関し,性急に結論を出すことなく,少年法固有の問題を十分に検討することを強く要請する。