生活保護基準の引下げに反対する会長声明

平成24年11月13日

香川県弁護士会
会長 白井 一郎

1 政府は、2012年(平成24年)8月17日、「平成25年度予算の概算要求組替え基準について」を閣議決定した。本閣議決定は「重点分野に」「限られた政策財源を優先的に配分する」ため、「義務的経費も含めた歳出全般について聖域視せず」「徹底した歳出の効率化を図る」こととし、その中でも「特に財政の大きな負荷となっている社会保障分野」においては「生活保護の見直しをはじめとして、最大限の効率化を図る」ものと特記している。本閣議決定は生活保護費を極力圧縮することを指向しており、今後政府が生活保護基準の引下げに向けた動きをとることは必至である。
2  言うまでもなく、生活保護基準は「健康で文化的な最低限度の生活」を保障する生存権(憲法25条)に直結する基準であって、国家が国民に保障する最低限度の生活水準である。
(1)  生活保護基準引下げの直接的影響
現在の生活保護基準そのものが「健康で文化的な最低限度の生活」といえるだけの内実を有しているか、低位にすぎるのではないかとの指摘がある中で、安易に生活保護基準を引き下げては、生活保護制度利用者は生活することすらままならなくなるおそれがあるのであって、かかる事態が憲法が立脚する個人の尊厳の原理(憲法13条)に悖る事態であることは明らかである。
(2)  生活保護基準引下げの最低賃金に及ぼす影響とその結果
また、最低賃金法9条3項は、地域別最低賃金の考慮要素たる労働者の生計費について、「労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営むこと」を目的とし、生活保護制度との整合性に配慮するものとされている。そのため、仮に生活保護基準が下がれば、最低賃金の引上げ目標額も下がることになり、今や全労働者の約35%を占め、うち相当数が生活保護基準に近い低賃金で働いている非正規労働者の生活を直撃するほか、正規労働者の賃下げをも招きかねず、「労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営むこと」の実現がますます遠のくことになる。
(3)  生活保護基準引下げの各種施策に及ぼす影響とその結果
さらに、生活保護基準は、地方税の非課税基準、国民健康保険料・同一部負担金の減免基準、介護保険料・同利用料・障害者自立支援法における利用料の減額基準、公立高校の授業料の減免基準、生活福祉資金の貸付対象基準、就学援助の給付対象基準など、医療・福祉・教育・税制などの多様な施策の適用基準に連動している。そのため、生活保護基準の引下げは、前記各種制度にかかる費用負担の増大をとおして低所得者層をさらなる生活困難に陥れ、貧困層の拡大に拍車をかける事態を招きかねない。
3  「生活保護基準未満の低所得世帯数の推計について」(2010年(平成22年)4月9日付け厚生労働省公表)によれば、生活保護の捕捉率(制度の利用資格のある者のうち現に利用できている者が占める割合)は2割ないし3割程度と推定され、制度の利用資格のある者の残りの7割ないし8割は生活保護基準以下の生活を余儀なくされているとのことである。最後のセーフティネットとされる生活保護制度すら十分に活用されることがなく、貧困層が増大・固定化しつつある我が国の現状に照らせば、我が国において必要とされるのはさらなる貧困対策の充実と拡大であって、生活保護基準の引下げではない。貧困が個人の尊厳を冒すものであるとの認識の下、貧困のさらなる拡大と連鎖を防ぐために、当会は生活保護基準の引下げに反対する。