秘密保全法制に反対する会長声明

平成24年10月9日

香川県弁護士会
会長 白井 一郎

政府における情報保全に関する検討委員会(以下「検討委員会」という。)から、我が国における秘密保全のための法制の在り方について意見を示すよう要請を受けていた、秘密保全のための法制の在り方に関する有識者会議(以下「有識者会議」という。)は、平成23年8月8日、政府が保有する特に秘匿を要する情報の漏えいを防止することを目的として、秘密保全法制を早急に整備すべきとする報告書「秘密保全のための法制の在り方について」(以下「報告書」という。)を発表した。
これを受け、検討委員会は、報告書の内容を十分に尊重の上、秘密保全に関する法制の整備のための法案化作業を進めることを決定した。
しかし、報告書には、以下のような問題点がある。
(1) 法制の対象となる、特別秘密として取り扱うべき事項について、①国の安全、②外交、③公共の安全及び秩序の維持とされ、秘密指定の権限を行政機関に付与するものとされている。
これでは、特別秘密の範囲が曖昧かつ広汎に過ぎ、公権力による恣意的運用を許し、その結果、国民が知るべき情報まで秘密とされ、国民の知る権利が侵害されるおそれがある。
(2) 特別秘密を保全するため、特別秘密を取り扱う者の適正評価制度を整備し、我が国の利益を害する活動への関与、外国への渡航歴、犯罪歴、信用状態、精神の問題に係る通院歴等を調査事項として想定し、調査対象者の配偶者等も調査することも想定している。
このような調査は、調査対象者やその周辺の人々の思想良心の自由、プライバシー権等を侵害するおそれがある。
(3) 罰則について、故意による漏えい行為のほか、過失の漏えい行為、独立教唆行為、煽動行為、犯罪行為や犯罪に至らないまでも社会通念上是認できない行為を手段とする特定取得行為等を処罰対象とした上、刑の上限を懲役10年とすること、懲役刑に下限を設けることも検討に値するとしている。
このような罰則の定め及び重罰化は、処罰範囲が不明確かつ広汎に過ぎ、正当な取材活動に対する萎縮効果を生み、取材・報道の自由を侵害し、罪刑法定主義に違反する疑いがある。
(4) 有識者会議は、平成23年1月4日、検討委員会委員長により開催が決定され、同年6月10日までの約5か月間、5名の委員による6回の会議を経て報告書が作成された。
しかし、報告書は、発表までとしても約7か月間という短い期間に、6回という少ない開催回数、参加委員5名のみという少数による議論を経て策定されており、拙速に過ぎると言わざるを得ない。この背景には、いわゆる尖閣諸島沖における中国漁船衝突映像流出事件があると考えられる。しかし、同事件が国家公務員法違反罪で処理されたことからも分かるように、我が国には、自衛隊法、日米相互防衛援助協定等に伴う秘密保護法、国家公務員法等の、秘密保全に関する現行法令があり、政府の保有する情報の漏えいの多くは、現行法令で対処することができる。
上記のとおり、報告書が想定する秘密保全法制は、国民の知る権利、思想良心の自由、プライバシー権、取材・報道の自由を侵害し、罪刑法定主義に違反する疑いがある。そのような重大な問題を含む法制であるから、広く情報公開をした上で国民に意見を募り、慎重かつ十分な議論を重ねてその内容を決定するべきである。
以上のとおり、報告書には重大な問題があるので、当会は、報告書が想定する内容の秘密保全法の制定に反対であり、同法案が国会に提出されないよう強く求めるものである。